「おひとり様」の次は「LGBT的仲間暮らし」の時代

松中氏率いるグッド・エイジング・エールズは、高齢期LGBTにとってのセーフティーネットの確立に向けた活動を始めている。

その一つが、「LGBTから始まる高齢期のなかま暮らし研究会」。

2013年1月に研究会を外部有識者とともに立ち上げてから、既に高齢期の当事者10名にインタビュー調査を実施してきた。LGBTに関する啓発週間「東京レインボーウィーク」の一環として4月末に開催した「LGBTと老後 ~誰とどうやって生きていく?~」というワークショップには、様々な年代の方が80名以上も参加。

中にはLGBTだけでなく中高年のストレート女性も。今後はLGBTに限らず、広い単身者層に向けネットワーク体制を整える方向を模索するという。

「おひとり様の次は、仲間暮らし。このコンセプトはLGBTから始まり、あらゆる人に広がる可能性があると思っています。LGBTに限定していえば、自分のセクシュアリティや周りとの関係性に悩み、自分のことを隠して生きていくという苦しさなどを共有できる同士という感覚があり、深いところまで理解し合えているんです。友人や元恋人など、家族という枠にとらわれず気の合う人たちと一緒に暮らしたいという思いを持つ人が多いです。また、お互いを尊重し合える人同士であれば、LGBTに閉じない暮らしでもいいという人も増えています。一緒に住まなくても助け合えるネットワーク体制も作りたいなと考えています」


(上)LGBTだけでなく、一般の男女と広く交流するために開いたカラフルカフェ。(下)全13部屋のカラフルハウスは、現在、7部屋にLGBT当事者が住み、6部屋にストレーが住んでいる。

例えばそれは、2013年に作ったLGBTフレンドリーなシェアハウス「カラフルハウス」より一歩進み、近居するコレクティブハウスであったり、街全体で支え合うコミュニティスペースだったり。その前段階のハブとして、5月17日には「カラフルステーション」を本オープンした。

これは同じ思いをもった株式会社ニューキャンバスとの共同プロジェクトで、1階はアジアン食堂、2階にシェアオフィスとコミュニティスペース。情報発信のギャラリースペースも設けたコミュニティステーションと言える。場所は神宮前二丁目だ。

「新宿二丁目のようなアイコン的な場所もLGBTにとっては大切だけど、もうちょっと開けた場所にしようと、あえてストレートの人も行き交うアートやクリエイティブが溢れる場所に作りました。2011年から夏限定で開放している葉山のカラフルカフェのお客様は、LGBTの当事者が5~6割で、残りはそのお友達やご家族。最近は近所の方や観光客も増えてきました。LGBTに限定せず、いろんな人がいる場所を作ること自体が、実はカミングアウトできない人にとっても居心地いい場所なんです。ここだったらもう話してもいいかな、と思えたらカミングアウトしてもいい。カミングアウトはやはり個人の選択。したいなと思ったときにできる環境がある世の中であってほしいので、そういう街づくり、場所づくりをしていきたい」(松中氏)


カラフルステーションは5月17、18日にオープンした。

LGBTに理解ある企業として知られるアルファロメオは、カラフルステーションをクラウドファンディングシステム等で支援。また、ニューキャンバスは、カラフルステーションの全体運営のもと、LGBTの中で最も就職に壁を感じるトランスジェンダーの人でも自分らしく働いてもらえる場所として1階のアジアン食堂「irodori」をプロデュースし既に当事者がスタッフとして働くことが決まっているという。

日本のLGBT市場は約6兆円。この市場規模をどう生かすか。本連載2回目(「なぜソフトバンクは性的マイノリティに愛されるのか」 http://president.jp/articles/-/12589 )ではLGBT向けの商品開発や職場での人材活用に前向きな企業を紹介したが、LGBTのためのセーフティーネット市場もまだまだ開拓の余地がありそうだ。

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