安心するためにひたすらお金を増やすことしか頭にないような生き方では、人生は不自由になるばかりです。

タッシリ・ナジェールの岩漠地帯を歩く。

それに、いくらお金を貯めたところで、生きているうちに「生」を満喫しないとつまらない。聖書にもあるように、富は天に積むのです。

「そこは、盗人も近寄らず、虫も食い荒らさない。あなたがたの富のあるところに、あなたがたの心もあるのだ」(ルカによる福音書 12章33~34節)

地上にあるものはいつか破壊される。地震と津波ですべてを失うなんてことは、もう2000年以上前から考えられていたのです。永遠に残るのは、天に積んだ目に見えない宝だけなのです。

それにしても2000年以上も前に書かれたものが、なぜこの時代でも通用するのでしょう。それは、愚かで、ときには悪をなすという人間の本質が変わっていないからです。

決して正しくないし、すぐに間違いを犯す。しかしまた、本当に崇高な行為をできるのも人間なのです。だからこそ聖書を読む資格がある。とくに信仰をもたなくてもかまいません。

もうひとつ、聖書は教養書としても役に立ちます。情報量が少なく、文化や宗教など自分たちと隔たりが大きいこともあって、日本人にとって中近東は、理解するのになかなか骨が折れる地域です。

日本人が中近東のことを正確に知ろうと思うなら、当時ユダヤの民がどういう自然環境のなかでどのように暮らしていたかが克明に書かれている『創世記』や『出エジプト記』に勝るテキストはないと思っています。こういうものを読まずに、中近東問題を論ずることはできないんですけどね。

作家 曽野綾子
1931年、東京生まれ。聖心女子大学文学部英文科卒業。79年、ローマ法王庁よりヴァチカン有功十字勲章を受章。日本藝術院賞・恩賜賞受賞。著作に『神の汚れた手』『神さま、それをお望みですか』『天上の青』『哀歌』など。著書『老いの才覚』は大ベストセラー。数多くの著作活動の傍ら、世界的視野で精力的な社会活動を続ける。
(構成=山口雅之 撮影=的野弘路、熊瀬川 紀)
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