物件・求人から退店まで「食のインフラ」をワンストップ支援。開発部長を兼務する新社長が現場主義を貫く理由

株式上場は経営者にとってゴールではなく出発点だ。上場からおよそ10年にわたり、企業価値を伸ばし続けた経営者は何に注力してきたか、そして今後の10年で何を目指すのか。目線の先を語ってもらうPRESIDENT Growth連載【トップに聞く「上場10年」の成長戦略】。今回のゲストは、シンクロ・フード(2016年、東証マザーズ上場=現在は東証プライム市場)の2代目社長に就任した大久保俊氏――。

主力事業は「飲食店向けサイト」

「シンクロ・フード」という会社にはなじみが薄くても、業界では知名度の高いサイト「飲食店ドットコムを運営する会社」と聞けば、わかる人がいるかもしれない。

調査データも発表しており、たとえば「カフェやラーメン店などは開業3年以内に6割以上が閉店(※)」といったプレスリリースは毎月のように配信され、メディアでも引用される。筆者も何度か同社に引用許可を得て、記事中で紹介したことがある。

その会社の社長が2025年12月に代わった。創業者の藤代真一氏が退任して代表権のない会長に就任。取締役だった大久保俊氏が社長に就任したのだ。

43歳の2代目社長が描く、事業のかじ取りや将来像を聞いた。

※「閉店しやすい業態は、『お弁当・惣菜・デリ』、『そば・うどん』、『ラーメン』、『カフェ』、『テイクアウト』」(2025年1月21日発表)

インターネットに刺激を受けた大学時代

大久保氏の経歴で目を引くのは、学生時代に現在の会社でインターンをしていたこと。どんな思いで始めたのだろう。

「当時はインターネット事業の勃興期でした。飲食店サイトの前に化粧品サイト『アットコスメ』(@cosme)が人気で、一般消費者が使用感などの情報を提供するのをワクワクしながら見ていました。ネット事業の将来性もシンクロ・フードで実現できると思いました。

とはいえ、アルバイト先の一つという感覚でした。飲食の仕事は好きで大和市(神奈川県)のラーメン店でも働きました。掛け持ちしていた塾講師の仕事が終わると深夜にラーメン店に行き、複数のバイトをする日もありました」

ホリエモンこと堀江貴文氏がプロ野球球団の買収で話題となり、一般社会にネット事業の存在が深く認知されたのは2004年、「食べログ」が事業を開始したのが2005年3月と、大久保氏の学生時代と重なる。

「シンクロ・フード」を創業した藤代氏も“ネットビジネス第1世代”だが、学生起業家ではなく、企業(アンダーセンコンサルティング、現アクセンチュア)でビジネスの仕組みを学んだ後に創業した。大久保氏は藤代氏の9歳下。インターン時代に創業当初の藤代氏と出会い、現在も会長と社長として関係が続く。

「藤代もぼくも技術者として自分で手を動かしてきたのは共通するところです。当時の飲食系ネット事業はBtoC(食べログやぐるなび)が中心でしたが、藤代が目をつけたのは飲食店オーナー向けのBtoBでした」

シンクロ・フード 大久保 俊 社長
シンクロ・フード 代表取締役 執行役員社長 兼 開発部長
大久保 俊(Shun Ohkubo)

1982年9月生まれ、神奈川県横浜市出身。2005年、中央大学商学部経営学科卒業。大学在学中からシンクロ・フードでインターンを経験。卒業後、ミツカンに入社して営業職に従事。3年で退職してシンクロ・フードに入社(事実上の復帰)。開発部門で実績を積み、2018年に取締役。2025年12月から執行役員社長兼開発部長。「直に知りたいテーマは自ら手を動かす」もモットーで、ショート動画のアルバイト探し「グルメバイトちゃん」は自ら撮影を行い、50店以上を取材した。

出店から退店までをワンストップでつなぐ

同社の強みは「飲食店運営の最初から最後までWEB情報でつなぐ」ことだ。

「現在は国内約33万人の飲食店オーナーが顧客の『飲食店ドットコム』や、人材に特化した『求人飲食店ドットコム』などを運営しています。お客さまは個人店オーナーが多く、2~3店を運営する方も多くおられます。事業開始から事業売却に至るまで、情報を網羅して提供しています」

当記事の撮影場所としてご協力いただいた、北海道料理の海鮮居酒屋「amme」(東京都渋谷区恵比寿西1-3-2)も同社の取引先の一つ。大学ラグビー出身のオーナーが経営する店だ。

飲食店支援の競合はいくつかあるが、たとえば「求人情報」は人材サイト、「店舗物件探し」は不動産サイト、「業務用厨房(ちゅうぼう)」は厨房備品サイトと、それぞれ専門業者がいる。

シンクロ・フードはそうではなく、「物件探し」「内装」「求人」「営業準備」「仕入れ」「運営」といった営業支援から「税理士探し」「保険サービス」「出店開業チェックシート」といったものもある。やむなく移転・閉店する場合の情報も用意する。一気通貫(ワンストップ)で事業展開するのが同社の特徴だ。

大手IT企業なら資金力で凌駕できるのではと思うかもしれないが、仮に競合サイトを構築しても収益化が難しい。主な顧客は小規模事業者で、細かく対応して「1社から数万円の報酬を得る」(大久保氏)という業務もある。大手には割に合わないのだ。同社はネット勃興期にシステムを構築した基盤があり、地道に拡大してきた。

AIは脅威ではなく共存共栄の存在

一連の飲食系サイトを構築・運営するのは社内の技術者だ。

「当社のエンジニアは単に“コードが書ける”(コンピューターが理解できるプログラミング言語を使って、システムやWEBサイト、アプリの機能や構造を記述する作業)だけでなく飲食店事業に詳しく、顧客の実情に沿った内容を構築できます。今後はさらに進めて『飲食店オーナーや店長がスマホを触るのはいつか』『仕入れ担当が困るのはどんなときか』といった現場状況も把握してほしい。最近は情報系学部を卒業した社員が増えましたが、より飲食店の現場に精通する人材を育成していきます」

大久保氏は社長就任後も「開発部長」を兼務する。もともと社内の技術構築を行い、「自社のサービス内容や仕組みはほぼすべて把握している」存在だ。外部委託をせず社内で完結させるのも持ち味だが、人材流出が多いIT技術者とどう向き合っているのか。

「まずは『専門性を尊重して働きやすい環境で仕事をしてもらう』ことを心がけています。とはいえ、5年や7年勤めて他社に移る人はいます。経営者としてはともかく、開発責任者としては市場価値が高まったわけですし、後進の人材が成長する機会にもなります」

そうした業務が、将来的に「AI(人工知能)」に取って代わられる恐れはないのか。

「自社の業務では結構ポジティブに考えています。 共存共栄の視点で人間はAIとどう関わるか。先日『AI 化』を進める上で社内のタスク(プロジェクトを達成するための具体的な作業)を自分でAIを使って開発してみたのです。従来の手法では1カ月程度かかるものがAIを利用すると3日で完成しました。AIを使いこなせば新サービスの開発もスピーディーに実現できます。飲食店に役立つ事業もより早く提供できると考えています」

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48億円を投じた買収の狙いと勝算

同社の横顔はそれだけではない。たとえば移動販売のキッチンカーの出店や運営支援を行う「モビマル」も運営すれば、足りない分野を補完する事業買収も行う。

「『モビマル』はキッチンカーと出店場所をつなぐプラットフォームで、今伸びています。飲食店を開業する資金がない方、そもそも実店舗を運営しない方向けに開発し、全国で1万以上の事業者(2025年11月時点)が登録しています」

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愛知県・鶴舞公園のお花見イベントでのキッチンカー出店の様子(写真提供=シンクロ・フード)。

2025年9月には投資ファンドから買収した「イデアル」(※)を子会社した。

「東京・新宿を拠点に商業用不動産(店舗物件)の仲介や賃貸、管理を行う会社で、特に飲食店の店舗物件に強みがあります。『飲食店ドットコム』の物件マッチング能力をさらに強化するために同社が必要と判断しました」

(※)商業不動産サービスを展開する「ホライズン14」の子会社。一連の買収額(取得総額)は約48億1500万円といわれた。

一連の事業買収にともなって発生した「のれん代」はシンクロ・フードの規模感からして高い買い物という声も聞く。どう考えているのか。

「イデアルはサブリース事業の特性上、業績が堅調で、対象とする市場も毎年2桁成長しています。また飲食店特化のM&A仲介・居抜きサービスも提供しているので当社の顧客基盤と親和性があり、シナジーが大きいのです。48億円超の買収額となりましたが、のれん償却費を吸収してもさらに利益を加算しており、収益力が非常に高い事業です」

自己採点は「30点」と厳しめ

業績を見てみよう。2025年3月期決算は売上高「39億5100万円」(前期比9.7%増)、営業利益「10億9700万円」(同5.7%増)、経常利益「10億8600万円」(同4.8%増)。

2026年3月期決算は売上高「56億円」(同41.7%増)、営業利益「6億8500万円」(同37.6%減)、経常利益「6億4700万円」(同40.4%減)と増収減益を見込む。

前社長時代の業績だが、自己採点を含めて上場後10年の取り組みを聞いてみた。

「まず、自己採点は30点です。2018年から取締役なので連帯責任で振り返ると、施策などの細かい局面では、もっと打つ手があったと感じています。一方、この10年で取り組んだのは事業の成長性に合わせて組織を整えたこと。かつては従業員が少なくて営業利益率が圧倒的に高い会社でしたが、社内の仕組みを整備して事業拡大を果たしました」

株価についてはどうか。本稿執筆時の株価は「481円」(2026年3月12日終値)、時価総額は「約139億円」(同年3月12日時点)となっていた。

「株価は市場が決めることなので、業績を高めて成長性を期待していただくしかありません。上場後に株式分割を2回行ったので上場時の株価(初値は2970円)と単純比較できませんが、期待に応えられるように進めていきます」

2026年3月期の売り上げ大幅増はイデアルの売上高が加算されたため。利益大幅減は、市況影響を受けた求人広告サービスの売上高減少が主な理由だろう。

既存事業のテコ入れ、新規事業への期待

今後10年に向けて、会社をどう進化させていくのか。

「月並みですが、既存事業の強化と新規事業の育成です。新規事業の『イデアル』は成長を生み出すエンジンと考えています。飲食店向けの物件に強く、さらに『店舗サブリース』(ビルオーナーから物件を借り受け、イデアルが貸主となって第三者へ転貸する事業)も得意です。そこに当社が持つ情報を付加することで、さらに事業力を高められます。 『モビマル』はまだ発展途上ですが期待値が高い。たとえば高齢者施設からの出店問い合わせがすごく増えています。施設内の敷地にキッチンカー(モビマル)が来れば、外食を楽しむことができ、施設で暮らす高齢者の方にも楽しい時間を提供できます」

一方、既存事業の飲食店求人はどうか。現在、店側は求人よりも原材料費高騰への対応を優先するといわれる。

「これまで若い世代の求人が中心でしたが、人材紹介の事業にも力を入れており好調です。こちらは腕の良い料理人や幹部候補の人材を飲食店オーナーに紹介する事業です」

すべてのステークホルダーと対話を重ねていく

前述のとおり、シンクロ・フードは2003年の創業から約22年間、会社をけん引してきた藤代氏が社長を退き(2025年12月26日付)、取締役会長に就任した。また、アクティビスト(物言う株主)として知られる株主が提案していた取締役2人の解任決議案が可決されたほか、別のアクティビストが提案した社外取締役1人が就任した。

「藤代は以前から世代交代を考えていましたし、私とも次の世代を見据えた話をしていました。しかし、今回の取締役の退任や社外取締役の就任とは別の話です。ファンド株主とは引き続き建設的な対話を重ねていきますし、すべてのステークホルダーの方とも対話を続けていきます」

経営基盤の強化も含め、大久保氏は新社長としてきちんと向き合う姿勢のようだ。

同社は、AIでも把握しきれない「リアルな価値情報」を強みとしている。例えば、「イデアル」が持つ物件の資産価値や、「モビマル」が持つ最適な出店場所などのデータだ。こうした一次情報を自社で保有していることがシンクロ・フードの優位性であり、そうした強みを生かした成長戦略を加速させる。

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(企業概要)
株式会社シンクロ・フード
・事業内容 飲食店出店開業・運営支援、および関連業者とのマッチング支援
・提供サービス 飲食店の経営・運営支援サイト「飲食店ドットコム」の運営
        飲食業界専門の求人情報サイト「求人飲食店ドットコム」の運営
        店舗デザインのマッチングサイト「店舗デザイン.COM」の運営
        インテリア業界専門の求人情報サイト「求人@インテリアデザイン」の運営
        キッチンカーシェア・マッチングサイト「モビマル」の運営 など
・法人設立 2003年4月
・資本金 8億8230万円(2025年12月1日現在)
・連結売上高/経常利益 39億5100万円/10億8600万円(2025年3月期)
・従業員数 202名=男性130名、女性72名(シンクロ・フード単体、2025年12月現在)
・本社所在地 東京都渋谷区

(文=経済ジャーナリスト・高井尚之 撮影=石橋素幸 撮影協力:amme)