最近も北海道の森の中で某YouTuberが(故意かはともかく結果的に)クマを餌付けしてしまった動画を公開し、その後に同じクマが近隣地区で殺処分されてしまった可能性も指摘され、炎上した事件も記憶に新しい。

餌付けのように個人の誤った行動だけでなく、人類の活動が原因となって引き起こされる気候変動や森林破壊が、クマの行動を変えてしまい、人間との衝突を増やしている……という報告もある。広い意味では私たちは皆、クマのすむ森にコカインを落とし続けているのかもしれない。

人とクマの関わりは、常に議論を呼ぶトピックだ。「里に降りてきたクマが撃ち殺された」というニュースひとつに対しても、「クマは何も悪くないのにかわいそう」から「人命のために殺処分は仕方ない」まで様々な意見が飛び交う。

人間の責任と権利、動物の生命が複雑に絡み合った問題であることを考えれば、そう簡単にスッキリした答えを出せるはずもない。しかし欲望のままに自然界を傷つけたり汚したりする行動が、動物にも人にも無用な災厄をもたらす……ということだけは、広く同意してもらえるはずだ。

クマに捧げるハイな鎮魂歌(レクイエム)

先述したように本作『コカイン・ベア』は、冒頭数分を除けば純然たるフィクションであり、一見すると現実の悲しい事件を軽薄に消費しただけの、一瞬バズってすぐに忘れられるB級映画に見えなくもない。

実際、映画の冒頭でクマにまつわる知識を披露した後に「Wikipedia調べ」というフレーズがドンと出る場面のように、あくまで娯楽映画なので真面目に受け取りすぎないでね! というエクスキューズも欠かさない。

それでも本作の結末を見ると、人間のせいで無惨な最期を遂げたクマに再び命と尊厳を、そして復讐の機会を贈る、真摯な物語にも思えてくる。クマに捧げるハイな鎮魂歌(レクイエム)のような映画、それが『コカイン・ベア』なのだ。

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