大学基金が約7.7兆円、すぐには困らない?

――ハーバード大学には世界一の大学基金があるとのことですが、このまま政府の助成金が打ち切られても問題ないのでしょうか。

【佐藤】助成金が打ち切られても、しばらくは問題なく大学を運営できると思います。ハーバード大学の収入は年間65億ドル。うち11%(約7億ドル)が国からの助成金です。ハーバード大学は収入における国の助成金の割合が比較的低く、大学基金の運営収入や寄付などの収入も潤沢なので、仮に11%が複数年分、なくなっても、他からの収入で補えると思います。そこは十分、計算して、戦っていると思います。

一方、コロンビア大学は2025年3月、トランプ政権の要求に応じ、助成金の凍結を早々と回避することを選択しました。その理由は、コロンビア大学はハーバード大学よりも収入における助成金の割合が大きいことです。トランプ政権の4年間、ずっと助成金を減額されてしまえば、大学の運営そのものが危機に陥るおそれがありました。そのため、運営上の視点から、妥協することを決断したのだと思います。

とはいえ、ハーバード大学の運営にとって、23億ドル(複数年分の助成金及び契約金の総額)もの凍結は痛手であることは間違いありません。そのため、できるだけ早く解決できるように、水面下で交渉していくと思います。

今こそ“ハーバード流交渉術”の出番

――7月21日には、ハーバード大学が助成金差し止めを巡りトランプ政権を訴えた裁判の口頭弁論が予定されています。トランプ大統領とハーバード大学の対立は、今後、激化していくでしょうか。

【佐藤】6月5日にトランプ大統領が「ハーバード大学と解決に向けた緊密な話し合いを続けており、来週ぐらいにはディールの内容を発表できる見込みだ」と投稿したことからも、両者は法廷闘争とは別に、水面下でかなり緊密な話し合いを続けていることがうかがえます。

交渉学の発祥の地であるハーバード大学には独自の交渉術があり、トランプ政権ともこの交渉術を使って話し合いを続けていると思います。

ハーバード流交渉術は、「原則立脚型交渉」(Principled Negotiation)とも言われ、アメリカの経営大学院や法科大学院で広く教えられています。ハーバード流は、一言でいえば、双方の利益を最大化することを目指す交渉術です。

原則立脚型交渉は、次の4つの原則に基づいています。

(1)人――人と問題を切り離す
(2)利益――「条件や立場」ではなく「利益」に注目する
(3)選択肢――お互いの利益に配慮した複数の選択肢を考える
(4)基準――客観的基準にもとづく解決にこだわる

出典=『ハーバード流交渉術 必ず「望む結果」を引き出せる!』(三笠書房)

一方、トランプ大統領が使っているのは古典的な「駆け引き型交渉」。勝ち負けにこだわる交渉術です。その中でも、毎回、使っているのが「ハイボール、ローボール」という戦術です。これは交渉のはじめに極端に高い、あるいは、安い金額を最初に提示するという交渉術です。非常にわかりやすいのが現在進行中の関税交渉。極端な数字を最初に出しているのは、あえてハイボール戦術を使っているからです。

ここで交渉相手が知っておくべきなのは、トランプ大統領本人は「ハイボール戦術」で極端な要求をしているだけなので、最初から全部が全部、自身の要求が通らないことは百も承知であることです。

トランプ大統領との交渉は、ある意味、「ハーバード流交渉術」の真価が問われるものなので、この交渉術を使って、どのようにハーバード大学がウィンウィンの決着に持っていくのか、世界中が注目していると思います。

ハーバード大学の卒業式で笑顔を見せる卒業生たち
写真=iStock.com/Steve Rosenbach
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