コースの途中で、客も一緒に生地こね体験
① 「The Pizza Bar on 38th」(東京・銀座)
人気沸騰につき今やすっかり予約困難店になってしまったカウンターピッツァの人気店「ピッツァバー on 38th」は、「マンダリンオリエンタルホテル東京」の38階、東京を一望するロケーションにあって見晴らしも素晴らしい。数々の輝かしい受賞歴を誇るエグゼクティブシェフのダニエレ・カーソン氏はサービス精神も旺盛で、まるでショーを見るような楽しさと共に、全部で8ピース8種類のピッツァからなるディナーコースが展開される。
前菜からデザートまで、コースは多彩で、途中で客にも生地を触らせてくれるどころか、なんと実際にこねさせてくれる。たとえ「そんなの面倒だよ」と思うような料理下手でも、実際に生地に触れるとあまりの柔らかさ、心地よさについついほんわか気分。まるで求肥のような手触りだ。カウンタースタイルの楽しさに息を呑むようなプレゼンテーションが加わって、この“体験型”サービスを超えるピッツァ店は他にはないのではないかと思わされる。
お手洗いの洗面台に全面の氷
② 「赤坂おぎ乃」(東京・赤坂)
予約当日までの1年間をじりじりと待ち侘びて、ようやく訪問できた人気店「赤坂おぎ乃」(しかもひとりディナー)。「ようやく!」という思いと一人の気軽さが相まって、すべてを味わい尽くすべくあらゆる部分を観察してきた。料理やプレゼンテーション、器の素晴らしさは多くの人々がSNSやメディアで語っていらっしゃるのでそちらに譲るとして、実はこの店、“ディテール”がすごかった。
中でもお手洗いに立った際に洗面台に氷が張ってあるのには驚いた。「なんのために?」と一瞬思ったが、蛇口をひねった瞬間に簡単に疑問は解けた。水が飛び散らないようにという工夫なのだ。そのため服に水がかからず洗面台の周りは水浸しにならない。たったこれだけでお手洗いの快適さったらない。さらに、その横には濡れおしぼりが「どうぞ」とばかりに積まれているのにも感動した。
サービスの細やかさは他にもさまざま。ユニークかつ温かく、例えばメニューブックの中に載っているQRコードをスマートフォンでスキャンするとそのまま店のWi-Fiに繋がるとか、今どきの店なのに帰り際には古式ゆかしき折詰を持たせてくれるとか、人気が出るのが心から納得できる若き名店だ。店主を務める荻野聡士さんの父が片岡鶴太郎さんというのは有名な話だが、なんと素晴らしいご家庭だったのだろうかと数回目の感動が心を満たす。日本料理の心意気がしみじみ感じられる、本当に好きな店だ。