管理体制を敷くことに信頼関係はない

渋幕では昼休みにグラウンドでサッカーをして走り回っているような生徒も、5時間目の授業開始前にはきちんと戻ってくる。他校から移ってきた先生は、最初は驚きの目でその様子を眺めているといいます。

「一般的に、もし授業に間に合わない生徒が出れば、『昼休みは外に出てはいけない』などの制限をすぐにルール化しようとするでしょう。しかし、そういった管理体制を敷くことに信頼関係はないですよね。教員が生徒を信頼し、生徒もそれに応えるような、そんな関係性があれば対話をしながら結論を出せるはずです。渋幕で40年間ノーチャイム制が続いてきたのにはそんな背景もあると考えています」

ノーチャイムは渋幕のあり方を象徴する制度です。生徒は信頼されているからこそ、自律していくことができるのです。

管理ではなく、信頼をすることで人は育っていく――。渋幕は、そんなことを私たちに教えてくれているのではないでしょうか。

研修旅行の「現地集合・現地解散」は渋幕の象徴

研修旅行の「現地集合・現地解散」を渋幕の象徴として挙げる生徒や卒業生も多かったです。

一般的な学校はグラウンドや駅に集合して、全員で目的地に向かい、全員で帰ってくるでしょう。さらに、自由行動があったとしても限られた範囲内でグループごとに活動することがほとんどだと思います。

それに対して、渋幕では生徒たちが現地集合し、グループごとに自由に巡り、現地解散して帰ってくる。研修先で深めたいテーマを出し、その関心が近いメンバーで班を組み、事前に生徒間で相談をしながら行き先を決めていきます。「私はここを見に行きたい」「僕はこのテーマでレポートを書くので、ここはおさえておきたい」とすり合わせをしていきます。こうした取り組みを中学1年生からスタートし、高校2年生まで繰り返します。

どんなことでもまず議論して決める

ちなみに、研修旅行は、男女混合の班になります。「男女がフランクに協働できている姿に価値を感じます」と岩田先生はいいます。卒業生からも「男子女子の仲がいい」「そもそも男女をあまり気にしていなかった」といった声も挙がっていました。

卒業生はこの研修旅行の特徴について、「自分たちで計画を練るので授業外でも自然に話し合いをするようになります。どんなことでもまずは議論して決めようという姿勢は、渋幕の中で自然と育っていきました。大学に入り、周りの友達が話し合いに慣れていないことを感じ、この環境は当たり前ではなかったのだなと実感しました」と振り返ります。