調理のハードルが高い魚を食卓に並べるにはどうすればいいか。フリーライターの大宮冬洋さんは「おいしい魚の選び方から調理方法まで教えてくれる場所がある」という――。

海水温が最大5℃も上昇、魚の旬が壊れつつある

今までより暑くなれば涼しいところに移住したくなる。人間も海洋生物も同じだ。例えば、主に瀬戸内海の刺し網漁で獲れて西日本の魚とされてきたサワラ。近年では北上傾向にあり、東京や東北の近海でも獲れるようになった。北陸が特産地だったブリも北海道で大量に水揚げされているというニュースもよく耳にする。

環境省が2024年8月に公開した「モニタリングサイト1000」によると、国内各地のサンゴ生息海域で海水温が上昇している。調査地点の最北に位置する千葉県館山市では、100年換算で海水温が約5℃上昇していることがわかった。WWFジャパンの試算では、モニタリングしている22の地点の海水温変化を平均したところ、同じく2.6℃の上昇傾向が認められたという。

気候変動によって環境が変化し、プランクトンや小魚の発生が不順になると、魚の成長や産卵期がズレてしまう。産卵のために岸辺にやってくるために大量に漁獲される時期にもばらつきが出る。我々消費者としては、「5月だから●●を買って食べよう」と決め打ちするのではなく、信頼できる鮮魚店を見つけて通い、その日の仕入れの中から「お買い得で美味しい魚」を教えてもらうのが良い。

春に美味しいのは800グラム以下の小型のタイ。背ビレ付近の肉が盛り上がるようについている個体は確実に旨い
筆者撮影
春に美味しいのは800グラム以下の小型のタイ。背ビレ付近の肉が盛り上がるようについている個体は確実に旨い

遠くても通いたくなる鮮魚店

愛知県に住んでいる筆者が毎月のように通っているのは遠く神奈川県鎌倉市にある「サカナヤマルカマ(以下、マルカマ)」。鎌倉と言っても電車の最寄り駅はなく、大船駅からバスで20分もかかる高台の住宅地にある。広い駐車場があるわけでもない。近隣住民以外にははっきり言って不便なのだが、筆者のように遠方からやってくる客もいる。なぜ惹きつけられるのか。

信頼できる鮮魚店や店員を見つけるのが丸魚チャレンジのコツ。筆者の場合は鎌倉の「サカナヤマルカマ」。週末には魚好きの老若男女が集まる、活気のある店だ
筆者撮影
信頼できる鮮魚店や店員を見つけるのが丸魚チャレンジのコツ。筆者の場合は鎌倉の「サカナヤマルカマ」。週末には魚好きの老若男女が集まる、活気のある店だ

マルカマの店頭には鹿児島県阿久根市や神奈川県小田原市から直送される多様な天然魚が並ぶ。頼めば気軽にサクにしてくれるが、推奨されるのは一尾丸ごと買って味わうこと。今日の気分を伝えれば、適切な魚を勧めてくれて、さばき方はもちろん、内臓の料理法まで教えてくれる。「魚の知識やおいしく食べる技術を伝えます」や「丁寧な仕事で魚の全てを無駄なく活かします」がマルカマのポリシーなのだ。店を訪れるたびに発見があり、自炊レベルがちょっとアップした気分になる。