エアコンがあっても熱中症で亡くなる高齢者

近年、地球全体における平均気温の上昇が問題視されるようになりました。いわゆる「地球温暖化」「地球沸騰化」と言われる現象です。

二酸化炭素などの温室効果ガスの増加が原因とされたり、惑星としての本来の気温に戻っていると言われたりしていますが、原因はどうであれ、夏の灼熱地獄はたまったものではありません。

私たち法医学者も仕事上、暑い時期に熱中症で死亡するケースが、年々増えていることを実感しています。

もともと高齢者は、若年者に比べて、暑さなど周囲の環境変動に対する感覚が鈍くなっています。そのため、一人暮らしの高齢者が、室温が40度を超えてもエアコンを使わず、熱中症に陥ってしまう例に遭遇することがあります。

こうして亡くなる方の場合、発見までに時間がかかることも多く、ご遺体の腐敗が進んでいたり、ひどく乾燥していわゆるミイラ化した状態で発見されたりします。こうなると、検案や解剖でも死因の断定が難しくなり、警察の捜査情報をもとに、「熱中症(推定)」と死因を推測するしかないケースも少なくありません。

冷房のはずが暖房をつけ続けて…

ある暑い夏の日、一人暮らしの高齢者が室内で倒れているのを大家さんが発見しました。すでに死亡しており、皮膚などが高度に乾燥してミイラのような状態でした。「高温環境下で熱中症に陥った」と推測されましたが、奇異な点として、暑い日が続いていたにもかかわらず部屋の窓は締め切られ、外気よりも室内の温度が高く、まるでサウナのような状態だったのです。

エアコンがついたままだったので、リモコンを確認しました。すると、冷房ではなく、なんと暖房に設定されていたのです。エアコンから吹き出した熱風がご遺体に直接当たり続けたため、死後にミイラ化したのだと考えられました。

高木徹也『こんなことで、死にたくなかった 法医学者だけが知っている高齢者の「意外な死因」』(三笠書房)
高木徹也『こんなことで、死にたくなかった 法医学者だけが知っている高齢者の「意外な死因」』(三笠書房)

亡くなった高齢者は、日常生活は一通りこなせるものの、目と足が悪く、常にメガネと杖を使っていました。解剖しても、死因となるような明らかな病気や外傷が確認できなかったため、死因を「熱中症(推定)」と判断しました。

エアコンのリモコンには、電池容量が少なくなると液晶表示が薄くなっていくものがあります。この方の部屋にあったリモコンの表示も、文字が薄くなっていたことが確認されました。こうした現場の状況から、亡くなった人は「窓を閉めて冷房をつけたつもりだったのに、視力の低下した目で表示の薄くなったリモコンを操作したため、誤って暖房をつけてしまった」と推測できたのです。

高齢で感覚も鈍くなっていたでしょうから、エアコンから熱風が吹き出しても、また室内の温度が高くなっても、しばらくは気づかなかったのでしょう。

歳を重ねると、自分の感じた温度と、実際の温度が異なることがあります。判断を誤ると死の危険性が高まるので、感覚だけに頼らず、見えるところに温度計を置いておくなど、客観的な指標に頼ることをおすすめします。

△このような危険を避けるには……

・自分の感覚を過信しない。
・室内に温度計や湿度計を設置して、確認するのを習慣化する。
・エアコンなど家電の定期的なメンテナンスを怠らない。