逮捕によって「負の連鎖」が断ち切れた
2024年2月、高松市の風俗店勤務女性の住むアパートの押し入れから、三人の嬰児の遺体が見つかった。通報者は「分娩した乳児の遺体を遺棄したと聞いたことがある」と話したという。女性は必ずしも隠していたわけではなかったと考えられる。
逮捕時、女性は35歳。一人暮らしだった。女性は捜査に訪れた警察官に「押し入れに3つの遺体がある」と話した。そのとき、女性の胸を去来したのは絶望か、それとも安堵だろうか。
一人目と三人目についての死体遺棄罪の公判は終了し、残る二人目の殺人・死体遺棄罪についての裁判員裁判が2月17日から高松地裁で始まる。20日に結審し、21日に判決が言い渡される予定だ。
「きっかけはどうであれ、この方はこれまで隠してこられたことが明らかになってよかったのだと思います。そうでないと、風俗店という妊娠しやすい勤務環境で、今後も同じことが繰り返し起きたかもしれません。それはご本人にとっても大変つらいことです。この裁判が、人生の方向転換のきっかけとなるように願います」
こう話すのは、熊本市の慈恵病院理事長蓮田健氏だ。

もし赤ちゃんポストに預けていれば…
慈恵病院は「こうのとりのゆりかご」と名づけた赤ちゃんポストを運用している。こどもを育てることのできない事情のある人が、匿名で赤ちゃんを預け入れることのできる仕組みとして2007年に始まった。
その後、2020年ごろから同院は、孤立出産による嬰児殺害遺棄事件で、被告女性の裁判支援活動に取り組んでいる。神経発達症を専門とする精神科医・興野康也氏(熊本県人吉市、人吉こころのホスピタル)と連携し、孤立出産した女性が赤ちゃんを殺害・遺棄した背景や原因の究明に努める。
裁判支援を始めたきっかけは、同じように孤立出産をしても、熊本まで赤ちゃんを託しにくる女性と、その場で殺したり遺棄したりする女性がいる、その選択を分けるものは何なのか、疑問を持ったことだ。
今回の高松市の事件には特に胸を痛めたという。逮捕後の供述によると、被告女性は、赤ちゃんが無事に生まれたら赤ちゃんポストに預けたいと思っていたためだ。
「私どもの『こうのとりのゆりかご』に連れて行くことを考えておられながら、このような結果になってしまったことは非常に残念です。せめて、被告女性の背景にある、生きづらさや困難を解明する役に立ちたいと思いました」