息子の育児は妻に丸投げしてきた

しかし、自身は子どもについてほとんど何も知らない。

息子の育児は仕事にかこつけて妻に丸投げしてきたし、発達過程や制度・法律に関する知識も薄い。「子どもを守るなどと大言壮語する前に、虚心に基礎知識や専門知識を頭に叩き込まなくては」。そう考え、短大の保育学科を目指そうと思い立った。

保育学科なら求める知識を体系的に学ぶことができ、保育士資格や幼稚園教諭免許もとれる。その上で「子どもを守る」につながる発信活動をすれば、説得力が増すはずだと考えた。もちろん、実際に保育所や幼稚園で働くことも視野に入れていたという。

「ただ、そもそもこんな還暦過ぎの半端者野郎が保育学科に入れるのかと思いまして、何校かに電話してお尋ねしたんです。『60過ぎの男子ですけれども、受験並びに入学は可能ですか』と。その中で、何歳であろうとどうぞと言ってくださった短大を受けようと決めました」

退職から数カ月後、緒方さんは妻におずおずと「短大の保育学科に入ろうと思う」と切り出した。そのときの妻の反応を、緒方さんは「あくまでも意訳ですよ」と断りを入れた上でこう表現してくれた。

「仕事を口実に家のことを一切せず育児も放棄、そんな人が何を今さら他人様の大切なお子さまを守りたいなどと言うのか」

とはいえ、妻はのちに心強い味方となる。実習時には朝早く起きて弁当を作ってくれ、与えられた課題に四苦八苦する緒方さんを見かねてピアノや裁縫を指導。童謡や手遊び歌を覚えられず困っていたときは、車の中でそれらのCDをかけてくれたという。