ファストフードチェーンが採用した王子製紙の「おはじき」

こうした規制強化の中で、日本の技術が再評価されそうです。たとえばハンバーガー店のフライドポテトやハンバーガーなどを包んでいる紙には、PFASが利用されています。アメリカで大型訴訟のターゲットになっていることもあり、マクドナルドは2025年中に全てのPFAS製品の使用を停止する、と発表しました。業界最大手の動きは、他のファストフード店等にも波及する可能性が高いと思われます。

ハンバーガーとフライドポテト
写真=iStock.com/LauriPatterson
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そこで、PFASを使用せず油分等をはじく代替製品が求められてきますが、王子製紙はPFASを使わずに油をはじく特殊な紙を製造する技術を持っています。この製品は「O-hajiki(オハジキ)」という製品名で既に2000年初頭に開発していたものですが、当時はコストが高く、ほとんど売れずに一旦は製造中止に追い込まれた製品でした。ところが、今回の米国における規制強化の流れの中で急に引き合いが増え、予想を超える需要になっています。

また、衣料品の世界でもPFASは広く使われてきました。撥水処理能力の高いゴア・テックス等は、元々PFASを使ってきたことで知られています。ゴア・テックス社をはじめ各社がPFASフリーの製品を開発する中、東レは2023年11月にPFASを使わずに、水をはじく機能をもつ衣料品向け新素材を開発したと発表しました。

これまでの水をはじく素材は、PFASの溶剤を生地に塗ってコーティングしていました。東レは太い繊維と細い繊維をうまく組み合わせて、隙間をつくることで水をはじく技術開発したのです。ハスの葉やチョウの羽などの表面にも同じ構造があることを知って開発の参考にしたそうです。

このような方法はバイオ・ミミクリーと呼ばれます。自然界の生き物や生態系の仕組みや性質を真似して、新たな技術や製品を生み出す考え方です。自然界には人間にも有益な技術がまだまだ眠っているのです。日本は早くから自然を観察して技術に転用していこうとの取り組みをしていますから、それがいま実を結ぶタイミングに来ていると感じます。

東レは先端半導体の分野で貢献するフィルムを開発

実は東レには、もう一つ大きな動きがあります。前述のように半導体の製造にもPFASが大きく関わってくるのですが、使用が規制されると産業界も打撃を受けます。東レは半導体の製造工程で使われるフィルムで全くPFASを使わずに成果が出せるものをつくりました。

これまでのフィルムはフッ素系樹脂のためPFASが使われることが多かったのですが、東レの新製品はPFASを含まないポリエステル樹脂を使いました。AI(人工知能)向けなど先端半導体製造での利用を想定していますが、すでに販売を開始していて、2030年には売上高で40億円を目指しています。

米国が強化した水道水規制を達成するには、全米の水道各社が5年以内に取り組みをしなければなりませんが、何らかの除去技術が必要になってきます。クラレは、独自の活性炭フィルター技術で水道水中のPFASを僅か2週間で200ngから米国新基準の4ngまで落とせる水処理システムを持っています。同社は今回の規制強化を背景に2030年までにこの事業の売上高を年平均10~15%伸ばす方針を打ち出しています。