制作の嵐が去って、闘病中に思うこと

インタビューの翌日、筆者はネストテーブルの現物を見るため、美知子さんとともにスヴェンスクト・テンの本店を訪れた。

場所はストックホルムの高級ショップが立ち並ぶエリアの中心部。本店のある建物の1・2Fが店舗になっており、1Fには同社のインテリアの中で喫茶を楽しめる「Café Svenskt Tenn(カフェ・スヴェンスクト・テン)」が併設されている。美知子さんは遅めのランチがわりに、羊肉のラビオリをオーダーした。

スゥエーデン・ストックホルムの中心地にある、スヴェンスクト・テン本店。
筆者提供
スウェーデン・ストックホルムの中心地にある、スヴェンスクト・テン本店。

平日の午後、私たちのほかには店の端の席でマダムたちが談笑している。

今後やりたいと思っていることはなんですか?

「もちろん元気になりたい。つらい治療を受けなくてもいいような体になりたい。旅行に行けるくらいの状態に戻れたらいろんなところを旅行したいし、日本に行って日本食をいっぱい食べたい。そんなことぐらいかな」

美知子さんは追加でカフェラテをオーダーする。

「私、闘病中だからって病人然としていたくないんですよ。病気してたって私はおしゃれしたいし、せっかくなら美味しいものを食べたい。人生いつ終わるかわからないんだから、楽しまないと損だよね、って思ってる」

かつて自由を求めてスウェーデンへ飛び立った女性は、自分の信念を突き通して最高の仕事を終え、いまは自分の気持ちを大切にして生きている。

インタビューが終わり、筆者も改めてコーヒーとお茶菓子をいただくことにした。美知子さんのところにもカフェラテが運ばれてくる。

「さあ、Ska vi fika!」と言って、美知子さんはとびきりチャーミングな笑顔を向けた。

スウェーデン人の習慣、コーヒーと甘いもので休憩を取る「Fika(フィーカ)」。単にリフレッシュの効果だけでなく、人間関係を円滑化する効果もある。美知子さんはインタビュー後「今までずっと自分のことは二の次にしてきたけれど、ようやく頑張ってきた自分のことを愛おしく思えるようになった。今が一番幸せ」と語った。
筆者提供
美知子さんはインタビュー後「今までずっと自分のことは二の次にしてきたけれど、ようやく頑張ってきた自分のことを愛おしく思えるようになった。今が一番幸せ」と語った。
宇乃 さや香(うの・さやか)
フリーライター

1982年北陸生まれ。大学卒業後、分譲マンション管理会社、フリーペーパー出版社、認知症対応型グループホームでの勤務を経験。妊娠・出産を経てフリーライターとして独立。生き方や価値観のアップデート、軽やかに生きるヒントを模索し、取材を続ける。