「調理の仕方がわからなくなる」という認知機能の低下も

また、国立健康・栄養研究所による高齢者を対象にした調査(「地域高齢者の食生活支援の質及び体制に関する調査研究事業」平成25年3月)は、80歳を境に「食事づくりの困りごと」の内容が、70代までと比べて変化する事実を報告する。

春日キスヨ『長寿期リスク 「元気高齢者」の未来』(光文社新書)
春日キスヨ『長寿期リスク 「元気高齢者」の未来』(光文社新書)

「料理で困っている内容」の選択肢として、「体力的に大変(無理)である」「調理の仕方がわからない」「献立を考えるのが大変(面倒)である」「レパートリーが少ない」「火を使うことに不安がある」を挙げ、「困りごとの有無」を質問するが、介護保険の利用に至っていない二次予防事業の対象者(*要支援・要介護状態となるおそれの高い状態にあると認められる65歳以上の人)の女性の回答結果から見てみよう。

「困っている内容」で、70代までの方が80歳以上より多いのは、「献立を考えるのが大変(面倒)である」「レパートリーが少ない」である。

それに対し、80歳以上で増えるのは、「体力的に大変(無理)である)」「調理の仕方がわからない」「火を使うことに不安がある」の3つである。

こうした背景には、体力と認知機能の低下が大きく進む80歳以上の長寿期高齢者人口の増大が大きく関わっている。

春日 キスヨ(かすが・きすよ)
社会学者

1943年熊本県生まれ。九州大学教育学部卒業、同大学大学院教育学研究科博士課程中途退学。京都精華大学教授、安田女子大学教授などを経て、2012年まで松山大学人文学部社会学科教授。専門は社会学(家族社会学、福祉社会学)。父子家庭、不登校、ひきこもり、障害者・高齢者介護の問題などについて、一貫して現場の支援者たちと協働するかたちで研究を続けてきた。著書に『百まで生きる覚悟 超長寿時代の「身じまい」の作法』(光文社新書)、『介護とジェンダー 男が看とる 女が看とる』(家族社、1998年度山川菊栄賞受賞)、『介護問題の社会学』『家族の条件 豊かさのなかの孤独』(以上、岩波書店)、『父子家庭を生きる 男と親の間』(勁草書房)、『介護にんげん模様 少子高齢社会の「家族」を生きる』(朝日新聞社)、『変わる家族と介護』(講談社現代新書)、『長寿期リスク 「元気高齢者」の未来』(光文社新書)など多数。