「消費者負担」がダントツで高い日本農政
農業分野の研究者である山下一仁先生は、日本の農業補助金のあり方を以下のように指摘しています(*2)。
OECD(経済協力開発機構)が開発したPSE(Producer Support Estimate:生産者支持推定量)という農業保護の指標は、財政負担によって農家の所得を維持している「納税者負担」と、国内価格と国際価格との差(内外価格差)に国内生産量をかけた「消費者負担」(消費者が安い国際価格ではなく高い国内価格を農家に払うことで農家に所得移転している額)の合計である(PSE=財政負担+内外価格差×生産量)。
農家受取額に占める農業保護PSEの割合(%PSEという)は、2020年時点でアメリカ11.0%、EU19.3%に対し、日本は40.9%と高くなっている。日本では、農家収入の4割は農業保護だということである。
そうなのです。すでに、非常に高い補助金が投入されている。しかし、日本の場合は市場価格を歪ませる制度になっていて、消費者負担がダントツで高い。一方、他国は、農家に直接的に補助金を渡すことで、積極的に農作物が作られ、食料安全保障を守る制度になっているのです。
農家の人たちに対して、マーケティングの方法を伝える、輸出をサポートするということは重要です。しかし、農林水産省の発表によると、そもそも日本の農家の平均年齢が68.7歳(令和5年)という現状を考えると、やはり補助金の出し方やインセンティブの形を変える必要があります。物価の視点からも、食料安全保障の視点からも、それは最優先の事柄だとアグリエコノミスクスの視点からは声を大にして伝えたいです。
(*1)社会科学的なアプローチで労働現象を研究する楽しさを知ってもらいたい(川口大司教授)
RIETI 川口大司著「雇用への影響、最大限配慮を 最低賃金引き上げるべきか」
(*2)農業を国民に取り戻すための6個の提言 食料・農業・農村基本法見直しを機に農政を抜本的に正せ
構成=池田純子
2008年に神戸大学経済学部(計量経済学専攻)を卒業。2016年に一橋大学大学院にてMBA in Financeを取得。一橋大学大学院博士後期課程在籍中。研究分野はコーポレートファイナンス。新卒後は、大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)でアナリストとして資本市場分析に携わる。債券トレーダーを経験したのち、2012年に独立。著書に『投資一年目のための経済と政治のニュースが面白いほどわかる本』(大和書房)などがある。