ブラック組織に決定的に欠けているもの

残念ながら、そのような「汗を流す」活動は、国益に合致しているわけではなく、国民の利益になるわけでもない。国益に合致し、国民の利益になるような活動を積極的に行うことこそが政治家に求められている責務だと私は思うが、「政治の世界」で出世していくのは、内向きの「汗を流す」ことに熱心で、いわば「国民には無関心」な政治家たちなのである。

同じロジックは医療界の狭い医局においても珍しい話ではない。

このような組織の構造、組織の論理が強固な社会では、社会正義をまっとうすることは難しい。公共の利益よりも組織の利益が優先されるからだ。

また、このような組織では、「流す汗の量」が出世と直結するから、どうしても組織はブラック体質になる。夜遅くまで仕事をしているとか、飲み会には必ず参加するとか、そういう業務上はどうでもよいこと、あるいは相対的にはどうでもよいことに熱心になってしまう。当然、家族や家庭はないがしろにされ、あとに残されたパートナー(たいていは女性)はいわゆる「ワンオペ」状態になる。

こういう「内的な利益」を追求する社会では男性だけが出世し、女性は登用されないのはそのためだ。あるいは、「まるで男のように、とりわけ、男の欠点だけを蒸留したような、醜悪な男のように振る舞う女」だけが登用されるのだ。

「命令」「服従」ときどき「排除」があるだけ

そして、こういうグループ内では真に科学的な議論は行われない。言説の正しさそのものよりも、「何」が語られているかよりも、「誰が」それを言っているのかのほうがずっと重要だからだ。

白いマスクを手に持ったビジネスマン
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組織のナンバーワンの発言か、ナンバーツーの発言か。

こういう発話者「WHO」が、発話内容「WHAT」よりも優先される。「発話者」を根拠に意思決定がなされる。

そんな社会では、当然、議論が発生しない。

議論がないから、当該人物の発言以上の発展性はない。ヘーゲル的なアウフヘーベンもない。Aという意見とBという意見が葛藤したあとで、Cという止揚した新しい意見が生じることもない。「命令」「服従」「命令」「服従」(ときどき「反抗」と「排除」)があるだけだ。

そこでは医学生のプレゼンは「何をやった」だけがプレゼンされる。あとは教授(あるいはその代行者)の査定があるだけだ。「○○です」「正解」「○○です」「不正解」という判定があるのみだ。

根拠を述べる必要はないし、教授に根拠の説明は求められない。「○○教授は、何を根拠にそんなことをおっしゃるのですか」なんて学生や研修医が言ったら、その人物の評価は非常に低いものになる可能性が高い。だから、賢い学生や研修医は、絶対にそんなことは聞かない。たとえ思っていたとしても。根拠を求められなければ、根拠を述べようというインセンティブも生じない。

いや、根拠は「教授の意向に合致しているか」だけである。

まさか、「たぶん、教授がこの解答を求めていると思ってヨイショしました」とは言えないから、そこは黙っている。