うまくできないところがあっても生きていける

また、子どもの「ネガティブなところ」に触れられる関係を大切にしましょう。例えば、小学校低学年では宿題のチェックを求められます。これを、学力を身につけさせるためと考えるのではなく、子どもがどこを間違えるとか、苦手な科目は何かといった「子どものうまくできないところ」も話題にする良い機会と捉えておきましょう。もちろん、子どもの苦手なところについて叱る必要は全くありません。むしろ、親自身も「お母さん(お父さん)も、これが苦手だったなぁ」のように、親のできないこと、失敗したことを積極的に伝えて、「うまくできないところがあっても生きていける」という姿を見せてあげることが大切です。

そうすることで、子どもが自らの失敗やうまくできないことを話しやすい関係が生じるようになります。これは親だけでなく、学校の先生方にも実践してほしい工夫の一つです。大人が子どもに向けて語るのは「武勇伝」ではなく、「失敗談」である方が好ましいのです。

女の子の隣に座り、話しかけている母親
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子どもたちが現実に向き合えるような工夫を

そして、家庭では「家族みんなの事情を考慮した枠組み」を大切にしましょう。「子どもは親の言うことを聞いとけばいいんだ」ではなく、「全部子どもの言う通りにしてあげる」でもなく、みんなの事情を考慮した枠組みに協力するという考え方を伝えるのです。例えば、家族で外食に行くときに、いつも子どもの行きたいお店にばかり行くのではなく、父親や母親の希望するお店に行くこともあって良いのです(もちろん、親の行きたいところにだけ行くのは違う)。

この「現実」に対して子どもは不満を漏らすでしょうが、「家族なんだから、お互いの希望を叶え合おう」と伝えていくことが大切です。そして、子どもの思い通りではないお店に行き、その中でも「食べたい物」を選択することは、自分の思いからズレた「現実」にあっても生きていく練習になります。もちろん、家族みんなの事情を考慮した枠組み(ここでは、他の家族成員が希望したお店に行くこと)に協力してくれたことに対して、子どもに「ありがとう」と感謝を伝えることを忘れてはいけません。この感謝が、家族成員間で向き合えるものになると良いでしょう。

上記のような関わりによって、子どもに対して「現実」を示しながら「支える」という状況が生じやすくなります。こうした日常的・没個性的(=誰でも実践しやすい)・常識的な関わりを粘り強く続けることが、子どもたちが自身の現実に向き合い、成長・成熟を促すことになるのです。社会の変化が著しい時代になり、子どもと関わる大人世代には粘り強さと工夫が求められるようになりました。もちろん、そんな大人同士で支え合うコミュニケーションが増えることも大切ですから、多くの人と協力・連携しながら子どもと関わっていくようにしましょう。

※参考文献・引用文献
成田善弘(2024)『成田善弘 心理療法を語る 「まっすぐに」患者と向き合う』金剛出版

藪下 遊(やぶした・ゆう)
スクールカウンセラー

1982年生まれ。仁愛大学大学院人間学研究科修了。東亜大学大学院総合学術研究科中退。博士(臨床心理学)。仁愛大学人間学部助手、東亜大学大学院人間学研究科准教授等を経て、現在は福井県スクールカウンセラーおよび石川県スクールカウンセラー、各市でのいじめ第三者委員会等を務める。共著に『「叱らない」が子どもを苦しめる』(ちくまプリマ―新書)がある。