人々を魅了する率直な発言の源
皇族の女性という場合、一般の社会から嫁いできた皇太子妃や皇后に関心が集まってきたが、逆に、結婚すると皇族を離れ、一般の社会に出ていくことになる女王が注目されることは珍しい。『赤と青のガウン』は、そうした女王の目を通し、皇室がいかなるものとして見えてくるのか、それを教えてくれたところに大きな魅力があるように感じた。
しかも、彬子女王は、博士論文を書くための留学期間、皇族を警固する「側衛」もついておらず、自由を存分に味わった。それも、彼女のフットワークの軽さや、読者や視聴者を魅了する率直な発言に結びついていることだろう。それが一躍、彼女を皇室のスターに押し上げたのだ。
今後、各種のメディアにおいて、彬子女王が発言する機会は増えていくことだろう。となると、どういった発言を行うかに注目が集まる。そして、メディアの側も、皇室自体のことについて話を聞き出そうとするようになるかもしれない。
女性宮家の先駆けとしての役割
ただ、彬子女王の父親、寛仁親王は、若い頃には、社会活動に専念したいと皇籍離脱を希望したことがあった。そして、2005年に、首相の諮問機関である「皇室典範に関する有識者会議」が女性・女系天皇を容認する提言をまとめた際には、男系継承維持を主張し、大きな話題になった。それは、皇族は政治的発言を控えるべきだという暗黙の了解に反するものだったからである。
『赤と青のガウン』では、彬子女王が結婚を考えた男性のことがさりげなく登場する。そこも読みどころだが、その方との結婚はあきらめたという。
となると、やがて彬子女王は結婚しないまま三笠宮家の当主になる可能性がある。今でも実質的にその役割を担っているのかもしれない。とすれば、彼女は、今議論されている女性宮家の先駆けということになる。
女性宮家とはどういうものなのか。彬子女王のこれからの活動が、その重要性を証明することになるはずだ。
放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員、同客員研究員を歴任。『葬式は、要らない』(幻冬舎新書)、『教養としての世界宗教史』(宝島社)、『宗教別おもてなしマニュアル』(中公新書ラクレ)、『新宗教 戦後政争史』(朝日新書)など著書多数。