「なんで、彼らがいないんだろう?」

就職の目的は、パソコンスキルの習得だった。目標を達成した2年後に、東京へ飛んだ。

「アメリカでも、カリフォルニアは田舎なんですよ。情報もニューヨークで得られるものとは全く違う。それと同じで、日本なら東京。何かで起業したいと思っていて、その“何か”を考えるのも東京だろうと、20代半ばで上京しました」

モデル関係の会社に「起業するために東京に来たので、生活費のために働きたい」とあえてアルバイト雇用を希望しての就職。自分にとっての“何か”とは何だろうと日々、思いをめぐらせつつも、20代で起業することそれ自体が自ら希求してやまないものだった。

中村さんには帰国してからずっと、気になっていることがあった。

「ニューヨークのアパレルって、男性はゲイが多い。大学も学長はゲイだと公言していたし、男性の学生もゲイが多かった。憧れのデザイナーもそうだし、就職して出会った男性もそう。私にとって当たり前すぎたのに、日本に帰ってきたら、急に彼らがいない。なんで、いないんだろう?」

ニューヨークの公園で歩いている同性カップル
写真=iStock.com/william87
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湧き上がる強烈な疑問から、調べ出した。「ゲイ、いない」「LGBTQ、いない」とオンライン検索をかけたところ、はっきりとわかった。

「いる! 日本にも、同じ比率でいる。だけど、日本は文化や風潮でカミングアウトしにくく、おおやけにされていない。これって、私にできることが何かあるんじゃない?」

「友情婚」との出会い

さらに調べて、同性愛者のためのさまざまなサービスや事業は、“LGBTQだと知られたくない人”に向けたものがないことも見えてきた。

「日本って、カミングアウトしていない人が多いのに、その人たちのためのサービスってないじゃん。その人たちが困っていることって、きっとあると思う」

ここにきっと、何かがある。直感の赴くまま検索しまくり、そこで出会ったのが「友情結婚」だった。2012年か、13年の頃だ。

「あっ、これ面白いなって思いました。その頃のサービスって、パーティーか、ミクシィのコミュニティで出会うか、ネットの出会い系の3つだけ」

はっきり思った。ここだよ!と。

「これで、結婚相談所をやれば、需要があるんじゃない? これだけ、結婚相談所がいっぱいあって、友情結婚だけがないなんて……。ミクシィの書き込みもたくさんあるし、パーティーでも東京で頻繁に開催していて、毎回数十人は集まっている。“友情結婚”っていう言葉が、そんなに広まっていないのに」

それにしても、当事者ではない女性が、「誰もやっていないから、じゃあ、自分でやろうかな」とスッと思うだろうか。中村さんは躊躇ためらわずに、「ここだ!」とアクセルを踏むのだ。