役職定年でもともと不仲な夫婦に亀裂
金銭面以外に、仕事のモチベーションが低下することも夫婦関係に影響します。管理職でなくなると業務の内容も変わるため、定年はまだまだ先と思っていたのに、会社の第一線から退くことになります。思ったより早く人生の終わりが見えてきて、自分の居場所がなくなっていくような気持ちになり、そのストレスから家族に厳しく当たるようになります。
このように、役職定年による金銭面と精神面の影響は小さくありません。とはいえ、仲の良かった夫婦が役職定年を機に不仲になるというよりも、もともと夫婦が不仲で、家計管理をどちらかに任せきりにして意思疎通がおろそかになっており、役職定年によってその問題が浮き彫りになってくるというイメージの方が正しいでしょう。
こういったところは、定年退職の際の熟年離婚と似ている部分があります。そのため、役職定年で不仲になる夫婦は、たとえ役職定年がなくても、定年退職の際に同じ問題が起きるものと思われます。
定年退職前の離婚でも退職金は財産分与対象に
よく勘違いされるのですが、定年退職の前に離婚する場合でも、別居した時点の退職金額が財産分与の対象になります。そのため、退職金をもらって離婚するために定年退職を待つ必要はありません。むしろ、退職金が支払われた後に離婚に向けて動き出すと、すでに夫に隠されたり、消費されたりしてしまっていることもあります。
とはいえ、退職金は昔に比べて受給額が低くなってきていますし、残りの住宅ローンの返済に充てなければいけない場合があるため、離婚して退職金をもらっても金銭的には厳しいことがほとんどです。事前にシミュレーションをして、それでも離れて暮らすことを選ぶか、お金がないからと我慢して一緒に暮らすことを選ぶことになるのが、昨今の熟年離婚の現実です。
北海道札幌市出身、中央大学法学部卒。堀井亜生法律事務所代表。第一東京弁護士会所属。離婚問題に特に詳しく、取り扱った離婚事例は2000件超。豊富な経験と事例分析をもとに多くの案件を解決へ導いており、男女問わず全国からの依頼を受けている。また、相続問題、医療問題にも詳しい。「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に『ブラック彼氏』(毎日新聞出版)、『モラハラ夫と食洗機 弁護士が教える15の離婚事例と戦い方』(小学館)など。