レシートや過去の通帳を細かくチェック
しかし、買い物などはこれまでと変わらずA子さんの役目です。夫のやることといえば、A子さんが買ったもののレシートをチェックして、「トイレットペーパーはこんなに高いものなのか、もっと安い店があるんじゃないか」などと問い詰めるばかり。
とはいえ、全く家事に関わったことのない夫の指摘なので、どれもこれも的外れです。日用品も食料品も近所で安い店を探して買っていることなどを説明すると、夫は面白くなさそうな顔になり、「口答えするな!」と怒鳴ります。
休みの日には、昔の通帳を引っ張り出してきて、「この支払いは何なんだ」「もっと安くできたんじゃないか」と過去のお金の使い方に文句を言い、息子の中学受験の塾通いの費用にまで文句を言い出します。「2人で相談して決めたじゃない」「これは理由があって払ったものでしょ」と説明すると、「俺は認めてない」「聞いていない」とまた怒ります。
夫は残業や接待がなくなり早く帰宅するようになったため、役職定年前より2人で過ごす時間が増えましたが、その時間は専ら家計やA子さんのお金の使い方に文句を言っているだけです。
もともとあまり会話のなかった夫婦ですが、夫は一日中不機嫌な顔をして理不尽に怒るようになりました。しかし夫に家計管理ができるはずもなく、ただ何かにつけて「それはいくらだ」「誰の金だと思ってるんだ」と言い、時にはA子さんを突き飛ばしたり、ひどい時には手を上げたりすることもあります。A子さんは夫におびえて暮らすようになり、夫といると動悸がしてくるようになりました。
「定年退職後はどうなるのか…」悩んだ末に別居
役職定年でこんなことになるようでは、定年後に毎日一緒にいるとどうなってしまうのか……。A子さんは悩みに悩んで、長男が独立後に自分も家を出て別居を始めました。そして私の事務所に相談にいらっしゃいました。
収入や財産の資料を見せてもらうと、確かに役職定年をきっかけに夫の給与が大幅に減っています。ただ、A子さんが言った通り、生活できないほどではなく、夫婦2人で暮らすには十分な金額です。
A子さんによると、夫は役職定年後、飲み会やゴルフも減り、家にいることが多くなったそうです。おそらく、夫が暴力的になったのは、役職定年で管理職の肩書がなくなったことや、給料が減ったことで、プライドが傷つけられたことによる影響も大きいのだろうと思いました。
A子さんの依頼を受けて、夫に婚姻費用(別居中の生活費)の請求をしました。夫は弁護士を立てず、「妻は勝手に出て行ったのだから婚姻費用は支払わない」と反論しました。
妻は勝手に出て行ったのではなく、夫の暴言や暴力が原因であることを説明して何度かやりとりをしました。そのうちに夫はようやく基準通りの婚姻費用を払うようになりました。どうやら、争い続けて婚姻費用を支払わないと、給料が差し押えられて会社に知られる可能性があると気付いたようでした。