まず地域包括支援センターに連絡を
「正しい介護の初手」は、親の住む地域にある「地域包括支援センター」に連絡することです。地域包括支援センターとは、保健師、社会福祉士、介護士などが連携して、住民の介護や看護を包括的に支援する公の施設で、高齢者に関わる悩みの総合相談窓口です。各自治体に必ず設置されていて、担当エリアが決まっているので、実家がどこの包括支援センターの管轄なのか調べて連絡します。ホームページで検索したり、役所に聞いたりして確認するといいでしょう。
私も、親の介護に関する相談を受けることは多いのですが、地域包括支援センターの知名度が非常に低いことは危惧しています。「ここが高齢者の介護の入り口になる」ということが、思いのほか知られていないのです。
「介護が必要にならないと連絡してはいけないのではないか」と思いがちですが、「階段を上るときに手すりを使うようになった」「外出する頻度が少なくなった」など、小さな変化でかまいません。少しでも「おかしいな」と思うことがあったら連絡してください。
直接出向かなくても、電話だけでも大丈夫です。介護が必要になる前でも、地域包括支援センターの担当者が電話や訪問などで時々様子を見てくれるようになりますし、必要に応じて子どもに連絡してくれます。
センターとしては、そういう状況のお年寄りが地域に住んでいるということを把握できるのは助かります。医療も介護も、軽症のうちからわかっていると、打ち手の選択肢がありますが、重症になっていきなり相談されると、選択肢が狭まって困ることが増えます。
介護が必要になった場合は、センターの人が介護保険の申請を代理で行ってくれます。子どもが離れたところに住んでいる場合の「遠距離介護」についても相談に乗ってくれますので、大いに頼ってください。
介護だけが愛情表現ではない
「餅は餅屋」に任せ、自分は手を出さず、地域包括支援センターと連携を取りながら「遠距離介護」をする。そして、ときどき顔を見に行って優しくしてあげる。こうした親孝行の形もあるのです。介護をすることだけが、家族の愛情を示す形ではないはずです。
私のところには、介護を一人で抱え込み、ストレスにより「介護うつ」に陥っている人や、介護をしていた親が亡くなってうつ状態になっている人も、相談に来ています。
一人で抱え込んで孤立することだけは避けてください。介護については地域包括支援センターなどを活用し、自分自身についても、必要に応じて会社の産業医や精神科医などを頼ってください。介護は、なかなか先が見えにくく、長丁場になることが多いので、できるだけ無理をせず、外部の力を借りながら乗り切ってほしいと思います。
構成=池田純子
産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。