女性大統領候補は変革をもたらせるか
ハリスのタカ派ぶりは、イスラエルへの軍事支援の継続を力強くうたいあげた部分にも如実に表れた。2023年10月7日、ガザを拠点とするイスラム組織ハマスによる攻撃を受け、1200人の市民の命と200人超の人質を奪われたイスラエルがガザ全域で展開してきた軍事行動は300日超に及び、パレスチナ人の犠牲は4万を超えた。
確かにハリスは同時に、「ガザの苦しみが終わり、パレスチナの人々が尊厳、安全、自由、そして自決を実現できるように、戦争終結への取り組みを続ける」とも宣言した。
しかし、支持者の一部が強く求めてきたイスラエルへの武器禁輸には言及せず、その後に行われたCNNのインタビューで明確にその考えを否定した。イスラエル政策については、ハリスはバイデンと変わりがないとの失望も広がる。
初の女性大統領を目指して、女性の最高権力者へのネガティブなイメージを払拭するために、ハリスは男性に負けないタフさを打ち出していく必要があるのだろう。今後、ハリスは勝利を追求する中で、歴代の男性大統領とほとんど同じような考えを持ち、同じような政策を遂行する女性大統領候補へと転身していくかもしれない。
「今はハリスがどんな大統領になるかを論じている場合ではない、打倒トランプがすべてだ」というのが今の民主党のムードだが、それでよいのだろうか。
女性大統領の誕生は、それだけでアメリカを変えるわけではない。そのことによって新しい考えや価値観が政治外交に持ち込まれるからこそ、意義がある。
ハリスはアメリカによい変革をもたらす女性大統領になれるのか。トランプとの選挙戦の行方とともに、政治家としての彼女の変容にも注目したい。
(*1)Elaina Plott Calabro, “The Kamala Harris Problem” Atlantic (October 10, 2023).
(*2) Gloomy Landscape for Democrats in Midterms As Biden's Approval Drops To 38% in USA TODAY/Suffolk poll, USA Today (November 7, 2021).
(*3) “What Does America Think of Kamala Harris?” Los Angeles Times (April 23, 2024)
(*4)“Kamala Harris' Approval Rating Is a 2024 Problem” Newsweek (Dec 24, 2023).
(*5)“VP Kamala Harris Had 92-Percent Staff Turnover During Her First Three Years” Open The Books (July 22, 2024).
(*6)“Ex-Kamala Harris Staffers Have Bad Memories of A Toxic Culture in Her Past Offices And Are Texting Each Other About It” Business Insider (July 14, 2021).
(*7)“‘Not A Healthy Environment’: Kamala Harris’ Office Rife with Dissent” Politico (June 30, 2021).
(*8)Pew Research Center (August 9, 2018).
1981年生まれ。専門はアメリカ政治外交史、国際関係。東京大学教養学部卒、同大大学院総合文化研究科博士過程修了。米ハーバード大学日米関係プログラム・アカデミックアソシエイト、高崎経済大学准教授などを経て現職。著書に『Z世代のアメリカ』(NHK出版新書)、『私たちが声を上げるとき アメリカを変えた10の問い』『自壊する欧米 ガザ危機が問うダブルスタンダード』(共著、集英社新書)、共訳・解説書に『リベラリズム 失われた歴史と現在』(青土社)など。