純潔教育の主導世代とは

本書の分析によると、1924~28年生まれの人(現在95~100歳の人)までは、男女とも「結婚まで性関係は持つべきでない」と考えている人が、各調査年で6~7割に達しています。すなわち、このような考え方をもった人たちが、戦後の純潔教育を作っていったことは間違いありません。

おおまかに要約してみましょう。

●1930年生まれまでの世代(現在95歳以上)→結婚するまで性関係はいけない
●1930~55年生まれの世代(現在70~95歳)→結婚前の性関係が許容されつつある移行期
●1955年生まれ以降の世代(現在70歳以下)→結婚前に性関係をもってもかまわない

冒頭の学年誌の「恋愛相談」に戻ると、1960年代に「グループ交際のすすめ」を主導していたのは、「結婚前の性関係はけしからん」という意見をもつ大人もしくは親たち、まさに純潔教育を主導していた世代です。

「性の解放」といわれる現象の始まり

それに疑問をもちながら、教育を受けていたのが、現在の70~85歳の世代。

今の70歳以下になると、少なくとも意識の上では、結婚前の性関係には寛容になった世代といってよいでしょう。彼らが成人するのがだいたい1975年です。この時代からいわゆる「性の解放」といわれる現象が始まっていきます。

ただし、結婚前の性関係が許容されるようになったとはいえ、実際に性関係を持つ人々がすぐに増えていくわけではない。なぜなら、男女交際はどのようなものか、というモデルがなかったからです。

当時の親の世代は、男女交際は結婚に結びつくべきで、性関係は結婚後に限ると思っていた。しかし、子どもたちの世代は、「愛があればセックスしてもかまわない」と思っている。だからこそ、ならば“愛がある”とはどのような状態なのか――そんな悩みが生じることになります。

次回は、さらにそれらを考察していきましょう。

公園を歩くカップル
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山田 昌弘(やまだ・まさひろ)
中央大学文学部教授

1957年、東京生まれ。1981年、東京大学文学部卒。1986年、東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。専門は家族社会学。学卒後も両親宅に同居し独身生活を続ける若者を「パラサイト・シングル」と呼び、「格差社会」という言葉を世に浸透させたことでも知られる。「婚活」という言葉を世に出し、婚活ブームの火付け役ともなった。主著に『パラサイト・シングルの時代』『希望格差社会』(ともに筑摩書房)、『「家族」難民』『底辺への競争』(朝日新聞出版)、『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』(光文社)、『結婚不要社会』『新型格差社会』『パラサイト難婚社会』(すべて朝日新書)など。