もし75歳から受給にしても、その直前に亡くなる可能性も

例えば、75歳まで年金を繰り下げて、75歳から少したって亡くなった場合、受給できる年金額は75歳の誕生日から亡くなった日までになるので極めて少なくなる。それに対し65歳からもらっていれば、10年分の年金が余分にもらえたことになる。

75歳まで年金を繰り下げて、繰り下げ受給開始直前の74歳で本人が亡くなっても、65歳からもらった場合と同額の年金(増額された年金でないことに注意)を未支給年金として遺族がもらうことができる。

ただし、未支給年金を受け取る権利には5年の時効があるので、69歳から74歳までの5年分の未支給年金しか受け取れず、65歳から69歳までの4年分は受け取れない。そうであれば、規定通り65歳から年金をもらっておけば65歳から74歳まで9年分の年金がもらえたことになる。

【図表5】75歳まで繰下げ、74歳で死亡の場合の未支給年金支給期間

自分が長生きできる可能性にかけるのはギャンブル

繰り返しになるが、自分の寿命はわからないので、自分で自分の寿命を想定して何歳から年金もらうのが最も有利という計算はできない。もしやるとしても、それはギャンブルだ。

また、述べたように、年金繰り下げをすると不利になる事項がいくつかある。特に加給年金が減る人には繰り下げは勧められない。

そうすると「年金は繰り下げをせずに規定通りもらうのが最善の選択だ」ということになる。

もし100歳まで生きることが約束されていて、かつ、65歳の定年から75歳まで安定収入が保証されているのであれば、年金繰り下げをすべきである。

繰り下げをしないということは、「長生きができないときのためのリスクヘッジ」だし、「定年退職後、思うように稼げないときのためのリスクヘッジ」とも言っていいだろう。

筆者も65歳定年で給与収入がなくなったので、規定通り65歳から年金をもらった。定年後は、個人事業主としてコンサルタントをやったが、個人事業主になったばかりの収入は不安定。年金が安定的なベース収入になったので助かった。これを70歳または75歳まで繰り下げていたら、その間の収入がなくて困っていたと思う。

平凡だが、わが身に照らして平凡が最善ということを実感した次第だ。

しかし、どうしても年金を繰り下げたい場合もあるだろう。次の条件をすべて満たす人は高齢になり働けなくなった時のための保険として75歳まで年金を繰り下げることは可能だろう。

1) 65歳から75歳まで生活に困らない安定した収入が見込める人
2) 加給年金の対象になる配偶者がいない人
独身、または、専業主婦である配偶者が同年齢か年上であること、あるいは、夫婦共働きで配偶者が加給年金の要件を満たさないことなど。
3)75歳までに自分自身に万が一のことがあり、年金がほとんどもらえなくなってもそれはしょうがないと割り切れる人

これらの条件をすべて満たす人は、75歳まで繰り下げて通常の84%増しの年金を受け取ることにかけるのも一つの生き方だ。