権力を持つと「家事」を人任せにしたくなるのか
しかし、ここまで徹底的に家事ができない設定ばかり続くと、むしろ現実の女性たちに失礼ではないか、と心配になる。20世紀の「仕事には向かないが家事は得意」というヒロイン像を、「家事はできないが仕事は得意」に逆転させただけではないか。『私のお嫁くん』の山本を除けば、相手役たちはいずれも仕事能力も高い。相手役の男性がオールマイティーという設定も、結局はドジな女性を完璧なヒーローが守る、というお決まりの構図になっているのではないか。
また、家事ができる異性に惹かれる主人公も、家事能力で女性を測った従来型の男性をなぞっているように見える。結局人は権力を持てば、お金にならない家事を人任せにしたくなるのか?
『西園寺さん』は、まだ前半戦。もしかすると、今後主人公は家事の面白さや大切さに気付いていくかもしれないが、いずれにせよ「女性だからって、家事ができるイメージを押し付けないで」の次の段階へドラマが進むことが、本当の意味での男女共同参画社会への意識改革につながるのではないだろうか。
1968年生まれ。兵庫県出身。くらし文化研究所主宰。食のトレンドと生活史、ジェンダー、写真などのジャンルで執筆。著書に『母と娘はなぜ対立するのか』『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『「和食」って何?』(以上、筑摩書房)、『小林カツ代と栗原はるみ』『料理は女の義務ですか』(以上、新潮社)、『パクチーとアジア飯』(中央公論新社)、『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』(NHK出版)、『平成・令和食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)などがある。