部長と平社員 どれくらい年金額が違ったか
では、冒頭でご紹介した「部長」と「役職のない人」の年金額を見てみましょう。
勤め先は企業型DCなどを導入しておらず、国民年金と厚生年金の2階建て、部長の給与は平均約900万円、役職のない方の給与は平均約600万円でした。また、役職のない方は、10年ほど前に入社し、それ以前は別の会社で働いていたとのことです。
以上のことから、公的年金の受給額は以下のようになると予想されます。
■部長と平社員の年金額の比較
〈部長〉(65歳 1959年生まれ 平均年収900万円)
国民年金 年額81万6000円(月額6万8000円)
厚生年金 年額185万1100円(月額15万4258円)
合計 年額266万7100円(月額22万2258円)
〈役職のない社員〉(65歳 1959年生まれ 平均年収600万円)
国民年金 年額81万6000円(月額6万8000円)
厚生年金 年額142万3900円(月額11万8660円)
合計 年額223万9900円(月額18万6650円)
2人の年金額の差は、年額42万7200円(月額3万5600円)です(ボーナスを加味していない)。
年金額の差を埋めたのは「企業型DC」と「iDeCo」⁉
この差を埋めたのは「企業型DC(確定拠出年金)」や「iDeCo」かと思われます。役職のない方は、おそらく転職前に「企業型DC」「確定給付型企業年金」など3階部分のある会社で働いていたのでしょう(*2)。
企業年金は、退職後に「一括」で受け取ることもできますが、「分割」で受け取ることもできます。企業年金の制度内容によって異なりますが、分割で受け取る期間は、5~20年の間などから選択できます(少数ですが終身受け取れる企業年金もあります)。
また、企業型DCのある企業から、DCがない企業に転職した場合、その資産は「iDeCo」に移管されます。iDeCoは2017年の改正で会社員を含むほとんどの人が加入できるようになりました。
仮に、役職のない方が2017年から、月額2万3000円(年額27万6000円)を拠出していたとしましょう。7年間加入していたとすると、193万2000円の上乗せが可能です。iDeCoで積み立てたお金は投資信託などでも運用可能ですので、年率のリターンが平均6%だったとすると、最終積立金額は239万円になります(*3)。
加えて、前職の会社の企業型DCで積み立てた資産を1740万円と仮定すると(*4)、20年間に分けて受け取る場合、(1740万+239万円)÷20年間=989万5000円。年額約98万円の上乗せとなります。この場合、部長の年金額を大幅に上回る計算になります。
実際の年金額は同程度だったということですので、一部は退職金として受け取り、毎月受け取る年金額を抑えていると思われます。あるいは、前職での企業型DCの拠出額が試算より少なかったのかもしれません。
*2 iDeCoを受け取るには、企業型DCなどを含む、10年間の加入期間が必要です。すでにiDeCoの資産を受け取っているならば、前職で企業型DCに加入していた可能性が高いでしょう。
*3 利益を再投資した場合の金額です(複利で試算)。
*4 企業型DCの拠出額は、入社から10年間は3万円×12カ月×10年間=360万円、10年目から33年目までは5万円×12カ月×23年間=1380万円と仮定しました。
厚生労働省は5年に1度、年金財政の検証をおこなっています。7月3日に公表された2024年の財政検証では、標準報酬月額の上限の見直し案が発表されました。上限の見直しは3パターンあり75万円、83万円、98万円となっています。来年の改正をしっかり確認しておきたいところです。