匿名での投稿はプロに非ず

まず、患者差別が目立つ。患者の言動を揶揄やゆしたり、嘲笑ったりするものだ。

そもそも、患者とどのような対話が行われたのかをインターネットで公にしてはならないのが医師の守秘義務である。患者がこんなことを言ったとか、やったとかSNSで明らかにすること自体が、ルール違反だ。

残念ながら日本では医師会や各種学会などが定めるソーシャルメディア使用のガイドラインがない。私が調べた範囲では、日本医師会が、世界医師会(WMA)のソーシャルメディアに関する声明を紹介しているくらいである(※2)

要するに、日本では医者のSNS使用のルールはなく、各自の良識に任せられているのだ。本来はきちんとしたガイドラインを設け、違反者の罰則規定なども定められているのが望ましい。米国医師会(AMA)やオーストラリア医師会(こちらも略称はAMA)はガイドラインを作っている。

特にオーストラリア医師会のガイドでは、医師は匿名でソーシャルメディアに投稿しないようアドバイスしている。2018年、英国のNHS(国民医療サービス)イングランドのプライマリ・ケア部門責任者が匿名でソーシャルメディアに投稿し、これがバレたために辞任に追い込まれた。海外では医者はプロフェッショナルな職業だと考えられており、自身の言動に責任を持つべきとの考え方から、「匿名」での投稿は推奨されないのだ(※3)

患者や顧客を嘲笑するコメントは許されない

残念ながら、日本では「自身の言動に責任を持てない」、プロとしてはいささか残念な医者が今日も匿名アカウントで患者や家族を中傷したり嘲笑したりするコメントを続けている。

例えば、美容師やネイルサロンのネイリストが、顧客の容姿やファッションセンスをソーシャルメディア上で嘲笑したりしたらどうだろう。それは職業倫理上、許されない行為だと考えるのが自然ではなかろうか。

医者の説明を患者が理解できないといって嘲笑する人もいるが、自分の専門分野においては自分のほうが詳しいのが当たり前だ。そのような専門知識を持っているからこそ、医者は仕事で食べていけるのだ。知識がない患者だからこそ、どんな相手であっても、その相手に一番伝わる言葉で上手に説明し、理解を促すのが医者の腕の見せ所だと私は思う。

専門知識を持たない患者に差別的な態度を取ったり、嘲笑する医者も、相手が有名人だったり、ものすごいお金持ちだったりすると態度を豹変ひょうへんさせる人もいる。そういう有名人が仮に専門領域で無知だったとしても、その医者は懇切丁寧に説明する。

本当は、知識の多寡は本質ではないのだ。

それを知るだけでも、「分断」という人災は消えていく。

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写真=iStock.com/timsa
※写真はイメージです

※1 https://www.sciencedaily.com/releases/2021/08/210820111042.htm
※2 https://www.med.or.jp/jma/jma_infoactivity/jma_activity/2011wma/2011_02j.pdf
※3 Kind T. Professional Guidelines for Social Media Use: A Starting Point. AMA Journal of Ethics 2015; 17:441–447.
https://ama.com.au/sites/default/files/documents/2020%20AMA%20Social%20Media%20Guide%20FINAL_0.pdf

岩田 健太郎(いわた・けんたろう)
神戸大学大学院医学研究科教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学(現・島根大学)卒業。ニューヨーク、北京で医療勤務後、2004年帰国。08年より神戸大学。著書に『新型コロナウイルスの真実』(ベスト新書)、『コロナと生きる』『リスクを生きる』(共著/共に朝日新書)、『ワクチンを学び直す』(光文社新書)など多数。