定年後は「自分起点」で働く

定年後に働き続けるメリットは「年金を増やせる」以外にも、「社会とつながれる」「健康を維持できる」といったことがあります。

やはり仕事がある、自分の力を発揮する場所があることは、社会とつながり、気持ちを充実させます。また体を動かすので、健康にもいい。そして、何といっても長年勤めた会社という慣れ親しんだ環境であれば、ストレスも少ないでしょう。逆にいえば、会社に残って働き続けることがストレスになるのなら、退職したほうがいい。ストレスがたまると、体を壊しますから。定年後の生活は、「ストレスフリー」を最重要視するべきです。

冒頭で触れたように実際、塾生の約8割の方が、定年後も会社に残るという選択をされます。

最初は皆さん、「いつか定年がくるけれど、どうしたらいいかわからない」とおっしゃいますが、6回のワークショップを通して自分のキャリアを棚卸ししていくと、今の会社で働くことに対して捉え方が変わってきます。つまり、「いわれたことをこなしていればいい」という受け身ではなく、「自分はこういうことをしたい、だからここに残ろう」と、「自分起点」に変わるのです。

ワーキンググランドマザーの信念

たとえば、大企業に勤めている方のケース。彼はもともと技術者でしたが、営業や経営企画、調達など自分の希望とは違うところで働いてきて、「いよいよ定年後は技術者という立場で、現場の若者を指導したい」と情熱を持っていらっしゃいます。

また最近は、男女雇用機会均等法第一世代のキャリア女性が定年を迎えられ、本当にエネルギッシュだなと思います。ある大手出版社に勤めている60代のキャリア女性は、ずっと編集の仕事をされてきましたが、60歳の定年を機に編集から離れて「これからは社内の“ワーキンググランドマザー”として、子育て中の女性を支える実務をしていきたい」と。こういう方が社内にいれば、子どもを育てながら働く女性たちの大きな励みになるでしょうね。

屋外に立つ白髪のビジネスウーマン
写真=iStock.com/maruco
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こうした「やりたいことがある」という人だけでなく、「会社が好き」という方もけっこういます。たとえばビール会社の方だと「うちのビールは最高だな」なんて、その愛社精神は、うらやましくなるほど。だから、「あと5年で会社勤めが終わるのか」と寂しそうな人もいらっしゃいますね。やはり、30年働いてきた愛情がそこにはあるのだろうと納得します。

とはいえ定年後に、自分のやりたいことを必ずしも会社が受け入れてくれるとは限りません。これまでやってきたことの評価はもちろん、自分の意思を会社にしっかり伝えることも、定年後のポジション確立のためには非常に大事になってきます。