ようやく離婚に応じた夫
円満調停は不成立に終わったため、残る婚姻費用と離婚調停の話し合いが続けられました。
夫は相変わらず自分は悪くないと言い続け、「婚姻費用は1円も払わない」「離婚する場合も財産分与はしない。むしろA子が慰謝料を払うべき」と主張し続けましたが、婚姻費用は適正額の支払いを求める審判が出ました。
夫は、婚姻費用を払い続けるのなら離婚した方がいいと考えたようで、ようやく離婚の方向に傾きました。
それでも財産分与をしないこと、むしろ自分は被害者なので慰謝料を請求したいことを主張していましたが、調停委員から、裁判になってもそんな無理な主張は認められないと説得されて、ようやく離婚に応じました。
「円満調停」の実際
円満調停という言葉にはなじみがない方が多いかもしれません。そのため、まずは円満調停に関わる統計を紹介します。
令和5年(2023年)の司法統計によると、円満調停の申立総数は1811件で、そのうちおよそ3分の2が夫から、3分の1が妻からの申立てです。
離婚調停は3万4723件、婚姻費用分担調停は2万209件ですから、離婚に関する調停の中では数が少ない部類と言えるでしょう。
円満調停のうち、成立して終わったのは503件です。
その内訳は、調停離婚240件、協議離婚届出2件、婚姻継続(別居)が124件、婚姻継続(同居)が137件となっています。
婚姻継続というと「夫婦が仲直りした」というイメージがありますが、実際はそのうちほぼ半数が別居の状態での婚姻継続です。別居が一定期間続くと裁判で離婚が認められるため、別居での婚姻継続は、実質的に離婚に向けた終わり方と言えます。
このように、円満調停は、制度として利用される割合も、実際に夫婦関係が円満に戻る割合も、あまり高くはありません。
円満調停でなくても修復の話し合いは可能
私が離婚事件に関わる中で見てきた円満調停は、離婚調停を申し立てられた側が円満調停を申し立てるというケースがほとんどです。しかし、離婚せず修復を希望したい場合であっても、必ずしも円満調停をする必要はありません。
なぜなら、修復については離婚調停の中で話し合えるからです。実際に、A子さんの夫のように、別途円満調停を申し立てても、離婚調停と一緒に話し合うことになるので、円満調停をすれば特に有利になるといったことはありません。
離婚調停に対して円満調停の件数が非常に少ないのはそのためで、家事事件の経験がある弁護士であれば、離婚調停に対抗して円満調停を出すのは、積極的におすすめしないことが多いと思います。