子持ち世帯への“まなざし”はポジティブに変わるだろう

岸田政権は「異次元の少子化対策」と銘打ち、これまでいくつもの子育て支援もしくは子育て世帯をエンパワメントするような政策を検討したり、実際に打ち出してきている。

税制優遇や住宅ローンの金利優遇などといった金銭的な支援はもちろんのことだが、「子どもファストトラック」と称して公共施設の「子連れ優先」施策を打ち出したり、「子どもの泣き声は騒音ではない」ことを保証するための法制化をすすめるなど、数字では表れない子育て世帯の心理的プレッシャーや不便さ、かれらが知らず知らずのうちに負わされる“後ろめたさ”の解消にも努めている。

私はこれらの政策が必ずしも「少子化対策」になるとは考えてはいないが、しかし少なくとも「子持ち世帯」に対する世間からの“まなざし”にはポジティブな変化を起こすだろうと考えている。

これらは「子持ち様への不当な優遇」というわけではない。人口再生産性(共同体の持続可能性)に寄与するという多大な貢献をしていたにもかかわらず、「熱で子どもが休んだ」くらいでその貢献値が吹き飛ばされてマイナスに振れてしまう程度にこれまでは過小評価されていたという方が適切だ。本来の評価にふさわしい立場やリワードがもたらされるように適正化されつつあるだけなのだ。

子持ち様は「有り難がられる子持ち様」になる

いずれにしても、SNSやメディアで「子持ち様」に対する激しいバッシングや侮蔑によって大盛り上がりできていたのは、この社会にまだ「子どもが生まれない世界がどのような光景になるのか」を切実な問題として想像しなくてすむ(目をそらしていられる)余裕が残されていたからだ。

……だがそのような余裕も、そろそろ底をつく。

「だれが本当に社会の持続可能性に貢献しているのか」という文脈はいま以上にはっきりと浮き彫りになり、それと並行する形で、政治的にも社会的にも文化的にも人間関係的にも「子どもを持たない者」に対する風当たりは強くなっていく。

「子持ち様」は、いずれ本当の意味で社会から有り難がられる子持ち様として遇されるようになり、翻っておひとり様こそが今度はSNSやメディアで「おひとり様」と呼ばれるようになる。問答無用で進行する少子化と高齢化、インフレと人手不足の時代は、驚くほどあっさりと時代の流れを反転させる。

私があまり「生涯独身主義」を推奨しないのはこのためだ。

御田寺 圭(みたてら・けい)
文筆家・ラジオパーソナリティー

会社員として働くかたわら、「テラケイ」「白饅頭」名義でインターネットを中心に、家族・労働・人間関係などをはじめとする広範な社会問題についての言論活動を行う。「SYNODOS(シノドス)」などに寄稿。「note」での連載をまとめた初の著作『矛盾社会序説』(イースト・プレス)を2018年11月に刊行。近著に『ただしさに殺されないために』(大和書房)。「白饅頭note」はこちら