ベビーシッターに反対する男がいるなんて!

【海老原】確かに在宅勤務経験者の家事育児参加時間は伸びていて、今もあまり減退していません。これはいいことですよね。さらに、ベビーシッターを使うことに対する男性の意識も、ここ数年で劇的に変わりました。以前は賛成派が3割だったのが、今では7割になっています。これまでは妻がベビーシッターを使いたいといっても反対していた男性たちが、自分で育児を経験したらあまりにも大変だったから賛成に回ったのだろうと、私は見ています。

【上野】反対する人がいるんですか。いったい何を考えて反対してるんだろうと思います。現実にはベビーシッターはいくらニーズが高まっても、供給がありません。供給があってもコストが高くつきすぎます。男性がベビーシッターに賛成するようになったからといって、働く女性が抱える問題が解消に向かうとは思えません。

女子高生が見る真っ暗闇な社会

【上野】最後に、エピソードをひとつ紹介させてください。最近、女子高生相手に今の日本女性の現状を話す機会が増えました。あるとき私の講義を聞いた女子生徒の一人からこんな感想が返ってきました。「今日の上野さんの講義を聞いて、私がこれから出ていく社会はまっくらだとわかりました」と。もし海老原さんが私の立場にいたら、彼女に何とおっしゃいますか?

海老原嗣生『少子化 女“性”たちの言葉なき主張』(プレジデント社)
海老原嗣生『少子化 女“性”たちの言葉なき主張』(プレジデント社)

【海老原】難しいですね。「今の40代女性が社会に出たときは漆黒の海だったけれど、あなたが社会に出るころには夜明けが見えるぐらいには変わっていますよ」と言うかなと思います。

【上野】確かに、日本もいくらかは変わりました。今の女子高生の母親はちょうど40代ぐらいです。その母親の生活を見ていて、彼女たちは「こんなのやってられない」と思っています。母親が大変な思いをしているのに、父親はずっと変わらないことに不当感を持っていて、その思いを私にぶつけてくるんです。

【海老原】今の40代女性たちは男性社会で道を切り拓いてきたフロントランナーであり、本当に大変な思いをしていると思います。まだまだ女性に不利な社会であることは確かですが、彼女たちの頑張りのおかげで社会や男性は少しずつ変わってきました。さらなる変化に向けて、私も提言や発信を続けていきます。

構成=辻村洋子

上野 千鶴子(うえの・ちづこ)
社会学者

1948年富山県生まれ。京都大学大学院修了、社会学博士。東京大学名誉教授。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。専門学校、短大、大学、大学院、社会人教育などの高等教育機関で40年間、教育と研究に従事。女性学・ジェンダー研究のパイオニア。

海老原 嗣生(えびはら・つぐお)
雇用ジャーナリスト

1964年生まれ。大手メーカーを経て、リクルート人材センター(現リクルートエージェント)入社。広告制作、新規事業企画、人事制度設計などに携わった後、リクルートワークス研究所へ出向、「Works」編集長に。専門は、人材マネジメント、経営マネジメント論など。2008年に、HRコンサルティング会社、ニッチモを立ち上げ、 代表取締役に就任。リクルートエージェント社フェローとして、同社発行の人事・経営誌「HRmics」の編集長を務める。週刊「モーニング」(講談社)に連載され、ドラマ化もされた(テレビ朝日系)漫画、『エンゼルバンク』の“カリスマ転職代理人、海老沢康生”のモデル。著書に『雇用の常識「本当に見えるウソ」』、『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと』(ともにプレジデント社)、『学歴の耐えられない軽さ』『課長になったらクビにはならない』(ともに朝日新聞出版)、『「若者はかわいそう」論のウソ』(扶桑社新書)などがある。