子どもたちが抱く「万能的な自己イメージ」

薮下遊、髙坂康雅『「叱らない」が子どもを苦しめる』(ちくまプリマー新書)
藪下遊、髙坂康雅『「叱らない」が子どもを苦しめる』(ちくまプリマー新書)

さて、「ネガティブな自分を認められない」というあり様について、もう少し詳しく考えていきましょう。なぜ彼らは「ネガティブな自分」に触れることが、それほどまでに苦しいのでしょうか?

「ネガティブな情報」を送られた経験が少なかったり、「ネガティブな情報」を送られたときの不快感を大人との関係で納めていくという経験をせずに育った子どもは、自分に対するイメージを創り上げていくときに、「失敗のない」「叱られるようなことのない」「いろんなことが上手くできる」などのような良い面だけで自己イメージを構成することになってしまいます。「ネガティブな情報」が少ない自己イメージは、どうしても「現実の姿」よりも優れたものになりやすく、子どもは「現実の自分よりも良い自己イメージ」を抱えることになるのです。

※参考
内田樹(2018)「学びとは「不全感」より始まる」
全国不登校新聞社(編)『学校に行きたくない君へ』ポプラ社(pp199–220)

藪下 遊(やぶした・ゆう)
スクールカウンセラー

1982年生まれ。仁愛大学大学院人間学研究科修了。東亜大学大学院総合学術研究科中退。博士(臨床心理学)。仁愛大学人間学部助手、東亜大学大学院人間学研究科准教授等を経て、現在は福井県スクールカウンセラーおよび石川県スクールカウンセラー、各市でのいじめ第三者委員会等を務める。共著に『「叱らない」が子どもを苦しめる』(ちくまプリマ―新書)がある。

髙坂 康雅(こうさか・やすまさ)
和光大学現代人間学部教授

1977年生まれ。筑波大学大学院人間総合科学研究科心理学専攻修了。主な著書に『恋愛心理学特論――恋愛する青年/しない青年の読み解き方』(福村出版)、『深掘り!関係行政論 教育分野 公認心理師必携』(北大路書房)、『公認心理試験対策総ざらい 実力はかる5肢選択問題360』(福村出版)、『本番さながら!公認心理師試験予想問題 厳選200』(メディカ出版)、共著に『「叱らない」が子どもを苦しめる』(ちくまプリマ―新書)などがある。