政府を糾弾する夫を支え、国家親衛隊のトップに「卑怯者」

ユリアが政治的に注目され始めたとしたら、それは2018年のことである。ロシア大統領選挙が行われた年である。ナワリヌイ氏の出馬は、過去の有罪歴を理由に禁じられてしまった。ここから二人の命を賭けた激しい闘いが始まる。

夫アレクセイを有名にしたものは、汚職の告発だった。彼は「汚職防止財団(FBK)」を設立していた。例えば東シベリア・太平洋石油パイプライン建設中に、パイプライン公共企業であるトランスネフチの指導者らによって、約40億ドルが盗まれたと告発した。

2016年12月に、次の大統領選(2018年)に立候補することを表明した。2017年2月にはサンクトペテルブルクに最初の選挙事務所を開設、4月には何者かに緑色の化学物質が混入された液体をかけられ、右目の視力が一部失われた。

出馬が禁止されてしまったナワリヌイ氏は、2018年1月大統領選挙のボイコットを求める抗議活動を主導した。5月には、プーチン大統領が4期目で就任する2日前に行われた抗議デモで拘束、警察に従わなかった罪で懲役刑に処された。

そんな8月、氏は、国家親衛隊の新たな食料供給業者が、食料価格をつり上げているとする資料を発表。トップであるヴィクトル・ゾロトフ氏が、ロシア国家警備隊の調達契約から少なくとも2900万ドルを盗んだと主張した。

その直後、釈放されていた氏は再度、1月の無許可で違法な抗議活動の罪で拘束されてしまった。年金の対象年齢の引き上げに抗議するために、9月初旬に全国規模の集会を行うと呼びかけていたところだった。この年金問題は、幅広いロシア人を激怒させ、団結させようとしていたものだった。

夫を「ジューシーでおいしい細切れ肉にする」という脅迫

夫が服役中の9月中旬、ゾロトフ氏はナワリヌイ氏に決闘を挑むビデオメッセージを公開した。「あなたは私を侮辱的で中傷的な発言の対象にしました。将校の間では単に許すという習慣はありません」「リングの上でも柔道マットの上でも、どこでもよろしい。そしてあなたをジューシーでおいしい細切れ肉にすることを約束します」。

この「決闘」に対して、ユリアがインスタグラムで答えたのだ。

「私はこれをアレクセイと私たち家族全員に対する脅迫だと考えています。これは、自分が処罰されないことを喜ぶ、傲慢ごうまんな強盗からの脅迫です。私たち家族は、捜索、逮捕、脅迫が日常茶飯事の環境で長年暮らしてきました。私は恐れていません。そして私は皆さんにも恐れないよう強く勧めます」とユリアは書いた。

そして、ナワリヌイ氏が「答えるだけでなく見ることさえできない」期間に、このような訴えを公表して、ゾロトフ氏は「卑怯者(臆病者)」だと指摘した。ユリアは「彼に対して抱いている唯一の感情は軽蔑です」と述べた。「彼は臆病者です。なぜなら、汚職防止財団によって提起され、鉄壁の証拠によって裏付けられた汚職の告発に対して、彼は一度も返答していないからです」。
 そして、夫が釈放されたらゾロトフに答えるだろうと強調した。

このような断定的なものの言い方は、人々を驚かせるのに十分だった。しかし、彼女の発言は、あくまで夫が自由に行動できない場合の代弁者として、という形だった。