統計データには出てこない隠れた被害者も多い
ご想像がつくだろうが、性犯罪は「暗数」が多い。「被害を説明するのもつらい」と被害届を出すのをためらう人がほとんどだ。勇気を出して警察に行っても、セカンドレイプに近い取り調べを受けることもあるという。統計に表れる数字は氷山の一角でしかない。
法務省の「第5回犯罪被害実態(暗数)調査」(2019年)では、性的事件で警察に被害届を出す人はわずか14.3%とされている。つまり、8割もの被害者は、被害を認識しても被害届を出さずに我慢したり、もしくは勇気を出して被害届を出しても示談に終わったりしているということだ。
あなたの身近な人も、性被害に遭っているのかもしれない。ただ言わないだけなのだ。
わたしも女性であり、嫌な記憶はたくさんある。園児の頃から、小中高、大学生になっても、社会人になってもある。例えば、痴漢、盗撮、下着泥棒、卑猥な言葉をかけられる、いきなり車に乗せられそうになる――。
その場では頭が真っ白になり、起きていることを正確に理解できない。真っ昼間に、まさかこんなところで、という場でも起こる。幼少期は知識もないため、後で「あれはなんだったんだろう」と、とにかく嫌な気分になる。十数年経ってから意味を理解して、吐きそうになることもある。
未成年の性被害では、加害者が口止めすることも多い。また、周囲の大人に訴えても、反対に被害者が叱られることもある。「隙を見せた」「油断」「恥ずかしい」……訴えても大人からそうあしらわれる。そしてこんなことは誰にも言わないのが正しいのだ、と思い込まされる。
なお、被害者が悪いということは絶対にない。今は子ども用ホットライン、例えば法務局の「子どもの人権110番」や、LINE相談などもあるのでためらわずに相談してほしい。もちろん保護者用の窓口も警察、児童相談所、自治体など各所にある。
家庭内での性的虐待の40%が実の父親によるものという事実
では、どのような人からの加害が多いのか?
先ほどの内閣府の調査では、加害者の2割弱は身内などの「親密な人」、7割強が「顔見知り」と出ている。つまり見ず知らずの人間ではない。多くは家族や知り合いが加害しているのだ。また児童相談所の報告によると、家庭内での性的虐待の加害者の40%は「実父」なのである。
そこで、冒頭のドラマ内ミュージカル「娘にしないことはしない」に戻ろう。いま数字で挙げた現実をふまえて「娘にしないことはしない」は、はたしてセクハラのガイドラインたりえるだろうか?
そもそもセクハラをするような輩は、娘に対してもする。主人公の市郎も娘の純子に「お前、チョメチョメする気だなーっ、このヤロウ!」とすぐ怒鳴る。
このミュージカル、実はメッセージの主体が不明瞭なのだ。主人公・市郎の独唱ではなく、彼にあわせて女性3人が「Everybody Somebody’s Daughter(みんな誰かの娘)」とコーラスする。周回遅れの中年男性の「気づき」の表明ならまだしも、20代・30代の女性が彼を追認する仕立てだ。ここに主人公への「甘やかし」を感じてしまう。