元夫は「子育てプロジェクトのメンバー」

元夫との新しい関係をスタートさせたTさん。今はどんな状況にあるのだろう。

「一緒にいた時はいがみ合うことが多かったけれど、離れて暮らす今は『子どものために』と、互いが純粋に考えられるようになった」とTさんは語る。

怒りやわだかまりが薄れてくれば、自分も心が楽になり、何かをしようとの意欲も湧いてくる。息子と元夫の仲は良く、「お父さんと水族館に行きたい」などと息子も会うのを楽しみにしているようだ。

「もし元夫と息子を会わせない、との判断をしていれば、そのことで生じる子どもへの『責任』を自分は背負い切れたのだろうか」と時折思う。

今でも元夫とは時々険悪な雰囲気になる。その時には「役割分担」と「相手に求めすぎないこと」を意識する。「ビジネスライク」と思えばできるはず。

子どもを育て、好きなことをさせてあげるにはお金もかかる。息子は元夫の幼い頃とそっくりで、国旗が好きなど似ているところもたくさんある。進路などで相談したくなる時もきっと来るだろう。幸い元夫も「息子と一番接し、一番よく分かっている」と、Tさんの見方を尊重してくれるようになった。

「元夫は子育てプロジェクトのメンバーみたいなものですね」と笑顔で話すTさん。今の心配は、元夫が将来再婚した場合、子どもにどう伝えたらいいのか、ということ。その時は1人で抱え込まず、また誰かに相談したいと思っている。悩み、助けを頼りながら今にたどり着いたTさんは、何かが吹っ切れた、すがすがしい表情をしていた。

藤岡 敦子(ふじおか・あつこ)
ジャーナリスト/映像ディレクター

栃木県出身。新聞記者を経て英国・ブラッドフォード大学大学院平和学研究科国際政治・安全保障課程、及びシティ大学大学院ジャーナリズム学科で修士号取得。テレビ局でディレクターとしてニュースや討論番組を担当するほか、ウェブや雑誌でも執筆している。野宿者や難民問題、ハーグ条約、DV、虐待、出自を知る権利、東日本大震災被災地など社会的テーマを中心に取材。