大人の褒めたい、子どもの褒められたいのすれ違い

マンガのように、大人の気持ちと子どもの気持ちがすれ違ってしまうことはしばしばあります。このような経験をした子どもに話を聞いてみると、

「自分はほかにもいろいろなことをがんばっているのに、それは褒めてもらえない」
「褒められるのは、大人の言う通りにしたときだけ」
「うまくできていないのに褒められて、嫌だった」

などと語り出すことがあります。子どもが褒めてほしいと思っているところと、大人が褒めたいと感じるところが、一致していないことがあるのですね。

あっさり褒められたほうがうれしい子どももいる

これは自閉スペクトラムの特性がある子に限らず、ほかの子どもにも、私たち大人にも当てはまる話です。

例えば仕事をしていて、自分がいいと思っていないことを上司に褒められたときには、相手の欲目が見え隠れしますよね。うれしさよりも、「この人は自分にこういうことをしてほしいんだな」という期待を強く感じることがあります。そういうとき、心から喜べるかというと、微妙なものです。むしろ「この人は思い通りになったときにしか人を褒めない」と感じて、相手に反感を持ってしまうこともあります。

子どもが褒められたがっているのかをよく見る

本田秀夫・フクチマミ『マンガでわかる 発達障害の子どもたち 自閉スペクトラムの不可解な行動には理由がある』(SBクリエイティブ)
本田秀夫・フクチマミ『マンガでわかる 発達障害の子どもたち 自閉スペクトラムの不可解な行動には理由がある』(SBクリエイティブ)

一方で、自分で「今回は本当によくできた」と思っているときに褒められると、「この人は自分の努力をちゃんと見てくれているんだな」と感じます。そういう場面では、大げさに褒められても恥ずかしい思いはしないかもしれません。また、「よかったね」と軽い一言をもらえるだけでもうれしいものです。

子どもを褒めるときにも、そのくらいの感覚で考えるのがいいのではないでしょうか。その子自身が得意だと思っていること、よくできていると感じていることに目を向けて、その点をピンポイントで褒める。その子がうれしそうにしているなら、思い切り褒めてもいいかもしれません。恥ずかしさがあるようなら、「上手だね」と一言伝えるくらいにしてもいいと思います。褒めるときにも「子どもをよく見ること」が重要です。

本田 秀夫(ほんだ・ひでお)
信州大学医学部 子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長

特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事。精神科医師。医学博士。1988年、東京大学医学部医学科を卒業。東京大学医学部附属病院、国立精神・神経センター武蔵病院を経て、横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究に従事。発達障害に関する学術論文多数。英国で発行されている自閉症の学術専門誌『Autism』の編集委員。2011年、山梨県立こころの発達総合支援センターの初代所長に就任。2014年より、信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長。2018年より現職。日本自閉症協会理事、日本自閉症スペクトラム学会常任理事、日本児童青年精神医学会理事。著書に『自閉症スペクトラム』『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』(ともにSB新書)などがある。

フクチマミ(ふくち・まみ)
マンガイラストレーター

1980年神奈川県生まれ。女性誌や、書籍などの挿画、エッセイ・ルポマンガでも活躍中。女の子2人のママ。著書に、『子育てのお金まるっとBOOK』(新潮社)など、共著に『おうち性教育はじめます』シリーズ(KADOKAWA)などがある。