もう部下の「伴走」はしない
いつのまにか、「暗黒時代」は過去のものとなっていた。創業10年で100億企業となり、社員は今や、100名弱。男性用化粧品も手がけ、男性の社員も増えている。
「私たちが無理やりみんなを引っ張っていた時よりも、手放して、みんなにお願いするようになってからの方があきらかに業績は伸びています。任せて、その結果を見たら、みんなの方がすごいって心の底から思ったんです」
今は「伴走」ではなく、「見守り」がテーマだ。「伴走」と言うと、長い首輪をつけて引っ張ろうとしてしまう自分がいることを十分に知っているからだ。
「私にとって、暗黒時代で得た経験は人生の糧です。私に勇気をもって厳しい言葉をぶつけてくれた社員たちには、今でも心から感謝しています。あの気づきと反省がなかったら、今の幸せは味わえなかった。みんなの変化がすごく楽しいし、自分が今、この仕事を通し、楽しい人生を歩んでいることが、すごく幸せだなって思います。ただ、あの経験をもう一度する? と聞かれたら、絶対に断りますけど(笑)」
春風のような柔らかな笑顔は、揺るがない確信に満ちていた。
福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)で、第11 回開高健ノンフィクション賞を受賞。このほか『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』(集英社)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)などがある。