「日高さんも早く、子どもを作って」
「私たちの悪い癖が出ていたんです。2人とも思いが強くて、やりたいと思ったらすぐに行動にうつす。2人ではすべてのことを相談しながら何度も揉んで、結論に至っているから、何の問題も感じていませんでした。でも社員たちからすれば、全てが唐突だったんです。経緯を共有していないから、日々の仕事に急な行動指針とか新しい仕事がぼんと乗っかってくる。だから、嫌になるわけです」
社員にすれば、全てがトップダウン。経営者と社員の間に、決定的な溝があった。ある日、子どもの病気で有休を使い果たした社員が、子どもとUSJに行きたいと休暇を申し出たことがあった。
「それは、なくない?」
何気なく言ったつもりだった。しかし……。
「日高さんにも早く、子どもを作ってほしいです。子どもがいたら、私の気持ちがわかるはずです!」
いつもの自分だったら、欠勤で遊びに行くなんて非常識だ!と一蹴できたはずなのに。私、作りたいんだけど、できないんだよな。
何も言い返すことができず、日高さんは打ちひしがれた。
会社の暗黒時代は、あなたのせい
会社の雰囲気をよくする打開策はないかと、情報を集めつづけていた2人。「ワクワク冒険島」という研修が良いと聞き、社員全員に受けさせることにした。2泊3日で行うグループワークで、自身の強みや弱みを曝け出し、心を一つにしないとクリアできないような課題がつづくハードな研修だ。自他への理解を深め、最終日には、「会社のためにこのように貢献します」という宣言をする流れだと聞いていた
しかし、最終日に研修会社の講師から社長の岩崎さんにかかってきた電話は予想外のものだった。「社員たちが全員泣いています。今すぐ来てください」。
岩崎さんが会場につくと、社員たちが皆泣いていた。「私たちは岩崎さんと日高さんに全く認められていないから、何をやったら貢献できるか、わかりません」と。
「岩崎さんはみんなに申し訳ないと謝って、私が変わりますからと言ったようでした。その場で岩崎さんとみんなは一緒に号泣したと聞いています。……その後、社員の矛先が私に向いたんです」
内面を曝け出すグループワークの効果なのか、それから日高さんはいろんな社員に呼び出されるようになった。
「日高さんにとって大事なのは、目標を達成するための最短ルート。私たち社員は、その道に落ちている石ころや木にすぎない。私たちになんて、興味がないんですよね?」
「今のままだったら、誰も日高さんについて行かなくなりますよ」
「会社の暗黒時代は、あなたのせいです」
全ての言葉が、心をグサグサと突き刺す。ただ、謝罪の場を経験した岩崎さんから言われていたのは、「何を言われても、絶対に反論せずに全部聞こう」ということ。その通りだと思い、2時間でも3時間でも話を聞いた。