セクハラや性加害事件のニュースに対し、事実を疑ったり被害者を責めたりする反応がある。臨床心理士の宮﨑浩一さんは「性暴力について何らかの理由をつけ正当化するための誤った信念を、レイプ神話と言う。それらは、被害者を責める言説となってセカンドレイプを生じさせる。男性の性暴力被害はレイプ神話によって不可視化されやすい」という――。

※本稿は、宮﨑浩一、西岡真由美『男性の性暴力被害』(集英社新書)の一部を再編集したものです。

胸ぐらをつかまれる男
写真=iStock.com/kaipong
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男性への性暴力はなぜ世間から見えなくなってしまうのか

男性の性暴力被害が不可視であるとはどのような意味でしょうか。不可視ということは見えていないということです。しかし、現実には男の子も成人の男性も性暴力被害に遭っています。この事実と矛盾する「見えない問題」とはどのようなことなのでしょうか。

男性のレイプ神話というものがあります。

レイプという性暴力について何らかの理由をつけて暴力ではないと正当化するための誤った信念のことです。そして、レイプ神話は、被害者を責める言説となり、二次被害を生むセカンドレイプとなります。

レイプ神話は四つのタイプに分けられています。

1)被害者/サバイバーを責める信念
「酔っていたなら多少は責任があるだろう」「暴力や脅迫がないなら、レイプじゃないだろう」
2)申し立てに疑いを投げかける信念
「復讐や嘘で相手をはめようとしているんだろう」「被害から時間が経っているから、信じがたい」
3)加害者を免罪する信念
「男は性欲を我慢できないから仕方ない」「女性のほうが誘うようなことをしていたのではないのか」
4)「本当のレイプ」がどのようなものかについての信念
「レイプは知らない人から暗がりでされるもの」「常に暴力的なもの」「男性はレイプされない」「女性は加害者にならない」

レイプ神話による誤解から、被害者が責められてしまう

被害者の言動を責め、その告発を信じず、加害者を擁護することはよくあります。例に挙げられているような言葉が文字通りにあるいは、あからさまに使われている状況はそれほど目にしていないかもしれませんが、被害者擁護のようなこと、または、「差別ではないけれど」などと断りを入れながら、レイプ神話をなぞるような言葉は投げつけられています。

さまざまなレイプ神話がありますが、男性被害者に対する神話としては次のようなものが挙げられます。

・男性はレイプされない
・「本当の」男は、レイプから身を守れる
・ゲイ男性だけが被害者および/または加害者
・男性はレイプによって影響されない(女性ほどではない)
・女性は男性に性的暴行を行えない
・男性へのレイプは刑務所内でのみ起こる
・同性からの性的暴行で同性愛になる
・同性愛と両性愛の人は不道徳で逸脱しているので、性的暴行に遭うに値する
・もし被害者が肉体的に反応したのなら、その行為を望んでいる