人口減少でクマと人間の立場が逆転しつつあるのではないか

それでもこれまでは、一定数を駆除して増えすぎないよう管理してきたため深刻な事態にならずに済んだ。ところが最近は数少ないハンターが高齢となり、有害駆除に使う道具も不足しているため、捕獲が追いつかなくなっている。これが二つ目の要因だ。秋田県は捕獲数の上限を1000~1600頭ほどに設定しているが、過去5年の捕獲数は年間400~600頭台。年を追うごとにクマは増えていき、ついに人間の居住域のすぐ近くにすみ着き、繁殖までするようになった。

三つ目の要因は、クマが人里で食べ物を得るたやすさを覚えてしまったことだ。空き家に行けば収穫されずに放置されたクリやカキがある。畑に行けばトウモロコシ、果樹園に行けばブドウもリンゴもモモもある。大好きな甘い食べ物にいくらでもありつけるため、学習能力の高いクマは人里通いを始めた。そこで生まれた子グマは車の音にも光にも慣れて育つため、人間の生活圏に侵入することに抵抗がなくなってしまったように見える。

農産物が豊富なだけにクマがその味を覚えてしまった

人間は鈴やラジオを鳴らすだけで、攻撃を仕掛けてくる恐ろしい相手でも、手ごわい敵でもない。それを知った「新世代クマ」が陣取り合戦で優位に立ち、街を闊歩かっぽし始めたのではないか。クマの生態などに詳しい山岳ガイドの知人は「近い将来、家に鉄格子を取り付ける日が来るかもしれない」と話す。絵空事のように聞こえるかもしれないが、秋田県では現実味を帯びてきた。

秋田県自然保護課は「例年は出没がなかった住宅地でも、今年は目撃が報告されている。クマは臆病な性格で、人間の存在に気付けば向こうから遭遇を避ける。見通しの悪いやぶの近くや河川敷を歩くときは、鈴やラジオで音を鳴らして、遭遇を未然に防いでほしい」と呼びかけている。だが、このままクマが増え続けた場合、「音を鳴らす人間に近づけば食べ物がある」と学習する可能性も想定しなくてはなるまい。鈴がクマを呼び込むような事態にならないことを願うばかりだ。