画期的な新商品が出せなかった3年間
――ぽぽちゃん生産終了決定後、何か具体的な方針や企画などはあったのでしょうか?
【桐渕さん】会社としてやることとやらないことの線引きをするために、去年の4月にパーパス「子どもの好奇心がはじける瞬間をつくりたい!」を制定しました。
うちは玩具業界の中ではロングセラー商品が多いんですけど、先述したように、それらを維持していくのにものすごい労力がかかるようになっていました。収益が悪化する中で、「新商品を出して、ブルーオーシャンを開拓したい」と4年前から言っていたのですが、3年経過しても画期的な新商品が全く出てこない。既存商品の維持に日々を忙殺され、開発に時間を割くことができなかったのです。新しい商品を作るためには1回止めないといけないと考えて、次の商品は用意しないで生産終了に踏み切りました。
ぽぽちゃん以外にも、私が立ち上げ、事業部長を務めた子ども用自転車の事業もやめることにしました。同事業も他社との過当競争が進んでいたからです。
ですので、今年来年は業績的には厳しい状況を覚悟しています。
その甲斐もあって、今新商品のプロジェクトが9個ほど走っていて、2025年に1つか2つがローンチされる予定です。商品のジャンルはおもちゃに限らず、デジタルサービスなど幅広く考えています。
組織の根本的改革に着手
――会社自体を大きくして、既存商品の維持と新商品開発の両方を追う考え方はなかったのでしょうか?
【桐渕さん】ないです。フットワークが軽いというのがとても重要だと考えているので、「ビジネスをどんどん大きくしていこう」というよりは「このぐらいの規模でできることを探していく」という方向で考えています。
規模が大きくなってくると、今のような「子どもの好奇心に寄り添う」というのが達成できなくなるのではないかという懸念があります。大手と同じになってしまう。
そういう意味で今、もう一つ進めている改革があります。根本的な組織の在り方についてメスを入れたのです。ロングセラーを維持するのに都合が良い現状の組織から、子どもの好奇心に真摯に向き合い、スピーディに商品やサービスなどの事業を作るための組織に変化する必要があるからです。会社の中からピラミッド型の構造を徹底的に排除し、すべての活動をプロジェクトベースで立ち上げて、役割を終えたら解散する形にしていきたいと思っています。
新しいことを始めるために、商品だけではなく、いろいろなものをやめる決断をしたので、私は社内で“断捨離のプロ”と呼ばれています。
――今回は様々な要因がある中で、ぽぽちゃん生産終了というとても大きな決断をされたわけですが、再度、子どもが欲しがっているものとして見えたら、ぽぽちゃんじゃないにしても、新しいお世話人形が生み出される可能性はある、ということですか。
【桐渕さん】あると思います。子どもの「かわいいものをめっちゃ可愛がる」といった本質的なところは変わっていないので、それを存分に満たしてあげようと思った時に、今は人形ではなく、別の形なら全然できるだろうとも考えています。
お人形としてのぽぽちゃんは今回一度度終了となりますが、別の形でピープルができる役割はあるな、と考えています。
早稲田大学第一文学部卒。広告代理店社員、トラック運転手、築地市場内の魚介類卸売店勤務などさまざまな職歴を重ね、現在はライターとミュージシャンとして活動。