生産終了を決意した理由

――かくしてぽぽちゃんは、その後25年以上にわたって愛されるロングセラー商品となりました。今回、生産終了を決断するに至った背景や理由は何でしょうか?

【桐渕さん】一言で語るなら、「子どもの好奇心を満たす事業に集中したいから」というのがその理由です。ビジネスを続けていく上で、我々が唯一できるのが子どもと向き合うことであり、子どもの本音を見つけることができるのがうちの武器です。他社さんが注目していないフィールドでブルーオーシャンを作れると考えています。

逆に、他社さんが作れるものをうちが作ると確実に負けてしまうのです。しかし、ぽぽちゃんには、たくさんの競合が出てきて、コモディティ化という現象が起きました。商品を選ぶ保護者にとってどれも同じように見えてしまう状態になったのです。

「他社が作れるものを作ると確実に負ける」と語る桐渕さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
「他社が作れるものを作ると確実に負ける」と語る桐渕さん

昔は「ぽぽちゃん=目をつぶる・やわらかい」という子どもの好奇心に基づいた選択をされていたけれど、そうではなくなってきていました。

そんな中で起きる、競合品との売り場の面取り合戦や広告枠の奪い合いは、熾烈しれつなものがあります。それはお金の力や、人の数が必要な戦いなので、大手さんには勝てません。ぽぽちゃんというロングセラー商品を維持するために多大な時間とエネルギーを割かなければならないという状況に陥っていました。「このままぽぽちゃんをつくり続けるといずれ死ぬ」。そんな危機感がありました。

保護者の好みで選ばれてしまうジレンマ

おもちゃには、子どもが達した年齢に応じて買う「通過玩具」という側面があります。たとえば「1歳になったら積み木を買って、次は2歳の女の子には人形を」と、通過玩具という習慣で買われるとなると、おもちゃの選ばれ方が変わってきてしまう。最初は、2歳の子どもがぬいぐるみをギュッとするから「赤ちゃんをかわいがりたいよね」というのが核にあったはずなのに、通過玩具購入でおもちゃ屋に行くとたくさんの人形が並んでいて、保護者の好みで選ばれるようになるのです。

児童館などに、箱から出された状態のお人形があると、ぽぽちゃんは大人気で、保育士さんからも大変評判がいいのですが、じゃあ箱に入った状態でおもちゃ屋に並べられている時、子どもがたとえ「ぽぽちゃんがいい」と言ったとしても、保護者のファッション的な好みや外箱のデザイン、値段などが大きな判断基準となります。

我々は「子どもの好奇心を満たしたい」と考えてものづくりをしているはずなのに、保護者の好みや、「部屋に邪魔だからコンパクトなものを」といった大人の都合を勘案しなければならなくなってきて、「じゃあどっちを優先するんだろう」と。

このギャップが徐々に広がっていく一方で、我々も企業なので利益を得ないと続けていけない。このジレンマに、この10年ほど陥っていました。気がつけば子どもと向き合う時間が最小限になっていて、我々が大事にしたい「子どもの好奇心」からだいぶ離れた方向性になっていたと認識し、「これはもう、やめよう」ということになりました。