立場が揺るがないよう配慮された手紙

さらにジュリー景子さんは「メリーは本当にひどい面も多くあった」と綴っている。

その言動について、もっと具体的にいろんなエピソードを書くこともできるはずだし、あれもあった、こんなこともあったと浮かんできたのではないかと、勝手に推測した。実の母との関係に苦しむ人は、そういうことを話す機会が訪れた時、あふれ出すように止めどなく話してしまうことが多いからだ。

だからあえて、具体的なメリーエピソードについて細かく書かないようにしている感じがした。もしそれをつらつら書いたら、「私もメリーの被害者である」という訴えになってしまって、記者会見での自分の立場がブレてしまう。

自分の被害者としての報告は最小限に抑えることで、「加害者の親族であり、償いをする者」としての立場が揺るがないように配慮されている手紙だと思った。

そういった苦しい母娘関係である上に、その母が、世界の犯罪史に残る被害者数の性犯罪を繰り返していた弟をかばい続け、その極悪非道な行いをやらせ続けていた。その全ての尻拭いをする立場に立っているのがジュリー景子さん本人、ってちょっとすごすぎる。ジュリー景子さんがその話をするのに、過呼吸にならないわけがないと思う。手紙を書いただけで、相当すごいことだと私は思った。並大抵のことではない。

迷ったけれど、ここで書いた理由

しかしそういった「ジュリー景子さんすごいな」という気持ちは、いまの“ジャニーズ事務所”へのマスコミや世間の白熱した攻撃の数々や、怒り以外の激しい感情の吐露を見ていると、自分はそこに巻き込まれたくない、黙っていよう、胸にしまっておいたほうがいい、とも思う。

だからこのコラムをプレジデントウーマンオンラインで公開するのはやめておこうと、ついさっきまで思っていた。いまも迷っている。

だけど、私も聞いたことがあった。その噂。初めて聞いたのはいつだったか覚えてないほど昔から。そして何回も耳にした。「そうらしいね」って。「ジャニーさんってそういうことしてるらしいね」って。

だけどなんにも言わなかった。「それはおかしいんじゃないの」って声を上げたことなんてなかった。「おかしい、間違っている」とは感じたのに。

日本中にあった「ジャニーズは最高」っていう空気に従っていた。

だからいまはもう、書いてみようって思った。ジュリー景子さんやヒガシ、イノッチを応援している人もいる、ここにいるっていう自分の意見も。

空気に呑まれずに言うことが、一人ひとりの小さな気持ちや意見を言ってもいいという空気を作っていくことが、これから、子どもへの性虐待を絶対に許さない世の中にしていくために、何かの役に立つかもしれないと思うからだ。

田房 永子(たぶさ・えいこ)
漫画家

1978年東京都生まれ。2001年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞(青林工藝舎)。母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)を2012年に刊行、ベストセラーとなる。ほかの主な著書に『キレる私をやめたい』(竹書房)、『お母さんみたいな母親にはなりたくないのに』(河出書房新社)、『しんどい母から逃げる!!』(小学館)などがある。