計画の2倍売れなければ翌年は生き残れない

2019年4月、黒川さんたちが約2年をかけて開発した缶チューハイ「-196℃ ストロングゼロ〈瞬感レモン〉〈瞬感ライム〉」が発売になった。宣伝にも力を入れ、消費者への事前調査でも好反応を得ていた。店頭に並べば、順調に売れていくはずだった。

サントリー スピリッツカンパニー RTD・LS事業部 黒川郷さん
撮影=プレジデントオンライン編集部

しかし、結果は大失敗。年間販売計画として設定した140万ケースは上回ったものの、変化の激しいRTD市場では、初年度に達成すべき数値の目安は瞬感シリーズで設定した目標の約2倍である300万ケース程度とされている。それぐらい売れなければ翌年は生き残れないからだ。瞬感シリーズの発売初年度の販売数は145万ケースで、短命に終わるだろうことは明白だった。

「年間販売数がどのぐらいになるかは、実は発売初月に見えてしまうんです。数字を見て失敗だとわかったとき、最初に浮かんだのはチームメンバーに申し訳ないという思いでした」

売り続けなければならない営業部門にかけた言葉

上司や上層部に報告した際は、失敗そのものより「次はどうするか」が話題の中心になった。だが、チームメンバーとは年度内の営業戦略や原因についても話し合う必要がある。特に営業部門に対しては、初月で失敗だとわかっても諦めて放置するわけにはいかず、商品改良や軌道修正をしながら少しでも販売を伸ばすことが必要なため、どう声をかけるか苦慮した。

「こういう成績ですが今年度中はやり切りたいです」、「お試しで買ってくれたお客様は多かったので、この数を信じてやっていきましょう」。自分と同じく落胆しているであろうメンバーを少しでも勇気づけようと、黒川さんはそう声をかけて回った。

一方、開発やデザイン部門のメンバーに対しては、成績を報告した後、一緒に原因を分析した。このとき、失敗の原因を自分の中に見いだそうとする皆の姿勢を見て、それが逆につらかったという。

「デザインをもっとこうすればよかったかなとか、それぞれが自分にベクトルを向けて考えてくれたんです。コンセプトを立てたのは僕で、皆はそれに沿って動いてくれたのに。実際はコンセプト自体が間違っていたのではと自分を責めました」