※本稿は、NHKスペシャル取材班『中流危機』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。
「リスキリング」と従来の「スキルアップ」はどう違うのか
「リスキリング」という言葉、最近よく耳にするようになったと感じる方も多いのではないだろうか。いま日本においては国による明確な定義はなされていない。私たちが番組を制作した際には、専門家取材を踏まえて、「いま持っているスキルをレベルアップさせる従来の“スキルアップ”とは異なり、事業環境の変化に合わせて、新たな業務に必要な職業能力を習得させること」と説明した。さらに具体的にかみくだけば、「企業や行政が主体となって、働く人に、デジタルなど成長分野の業務に就くために必要な新たなスキルを習得させること」と言えるだろう。
よく混同されることが多いが、社会人の学び直しに代表される「リカレント教育」のように個人の関心を原点とするものとは違う。リスキリングは基本的にはあくまで企業や行政が責任をもって行うもので、企業が実施する場合は、“業務”として就業時間内に行うことが必要だと言われている。
また、同じ業務のための学びの中でも、いま担当している業務のスキルを向上させる、いわゆる「スキルアップ」とも違い、あくまで“新たな”成長分野の業務に就くための学びであることが特徴である。リスキリングが目指すのは、分かりやすい例でいえば、工場の製造ラインで働く人や経理事務を担当していた人に、プログラマーやAIエンジニアなどデジタル分野の業務に就いてもらうようなことである。
なぜ世界的にリスキングが注目されているのか?
そもそもなぜいま、リスキリングがここまで注目されているのだろうか? その背景には「技術的失業」に対する強い危機感がある。
「技術的失業」とはテクノロジーが導入されることにより自動化が加速し、人間の雇用が失われることをいう。いまChatGPT(対話型AI)の登場でますます現実味を帯びてきたが、これまでも人間の雇用がAIやロボットに取って代わられる可能性が示されてきた。