壊れた永久機関
これまで数十年間、利益を生み続けていた永久機関たるジャニーズ事務所に、わざわざ疑問を差し挟む人間はいなかった。だがそれは永久機関などではなかった、大きく暗い問題を内包しながらいびつに動き続けていたシステムだったと、ようやく皆が気づいたのだ。
利益にへつらいがちな社会でこのシステムを壊していくには、「利益を与える立場」から離れていくしかない。ジャニーズ事務所の本収入はメディアの出演料ではなく、ファンクラブ収入やライブ収入、そしてCMなどの大口ギャランティーであることはよく知られている。
いま、スポンサー企業がジャニーズ事務所のコンプライアンスに異を唱えて徐々に離れていくのを「今さら」「また足並みを揃えて」と批判する向きもあるが、早くにCM契約の見直しを判断した企業がどう考えたか、その理屈は察せられる。国内外のステークホルダーを相手に、自分たちがコンプライアンス遵守を厳しく問われている企業経営の側からすれば、こんな危なっかしい感覚に芯から染まってグレーな日本の「芸能」は取引相手としてリスキーであり、適格ではないと考えて手を引くのである。
目を引いたファンの提言
今回の事務所会見後、さまざまに沸き起こった意見の中で、一部のファンの提言が最も建設的であったように感じた。
ジャニーズ事務所は名前を変えてタレント育成機能とマネジメント機能を他社へ放出し、事務所はこれまでの版権管理に専念して版権からの収入を被害者補償に充てるべき、との意見。見聞きした中で、最も現実的かつ、これこそまさに「解体」だろうと感じられるものだった。
繰り返す性被害の混乱の中で思春期を送り、中には精神を破壊されてしまった被害タレントの頑張りと心に、本当の意味で親身に寄り添う。タレントの「タレント(能力)」を心から愛し信じ、応援するファンは、このように考えることができるのだと沁みた。この声は、画面の向こうへと、あれほど大きな舞台の上へと、届くだろうか。
1973年、京都府生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。時事、カルチャー、政治経済、子育て・教育など多くの分野で執筆中。著書に『オタク中年女子のすすめ』『女子の生き様は顔に出る』ほか。