40代の出産確率「8.8%」というミスリード
婚活・妊活ブームのさなか、NHKのクローズアップ現代が、その風潮を煽るような番組を作りました。2016年10月26日放送の「“老化”を止めたい女性たち~広がる卵子凍結の衝撃~」という回がそれです。
いわく、40歳になったら高度医療を使っても、採取した卵子から体外受精で子どもを授かれる確率は8.8%しかない、というもの。いわゆる「早く嫁げ」「早くつくれ」論の極め付きといえたでしょう。
その反響は女性を“開明”させるというより、30歳を過ぎた女性への鞭打ちともいえるものでした。番組放映後、適齢期男児を持つ親御さんから、「30代の女性と結婚してはだめだ」「女として賞味期限切れだ」という心無い発言が相次いだと報道されています。
この「8.8%」という話が正しかったのなら、それでもまだ納得はできるのですが、データや結論までの構成には、多々疑問符がつく内容でした。
年齢とともに、受精・妊娠・出産の確率は下がり、障害の発生や不妊の比率が上がるのは、間違いのない事実です。それを否定する研究はまずないでしょう。
ただし。受精・妊娠・出産確率の低下は、思っているほどではありません。30歳の出産可能性を100とした場合、40代前半なら70か、もしくはそれ以上はあるというのが、多くの先行研究の示唆するところです。
この話については、後ほどじっくり説明しますが、その前になぜ、NHKは「8.8%」とミスリードしたのか、そしてなぜそれが無批判に広まってしまったのかを考えることにいたしましょう。
40代出産の7割以上が自然妊娠
40歳を過ぎると8.8%しか出産できないという数字ですが、これは、体外授精1回当たりの出産に至る確率です。
まず、世の中には、不妊治療などせず、自然妊娠している40代が多々いるということ。いや、不妊治療者よりも、自然妊娠のほうが圧倒的に多いのです。直近2020年、日本では年間4万8517人の人が40歳を超えて出産をしています。そのうち、不妊治療患者は1万3235人。残りの3万5282人は自然妊娠。つまり、7割以上が自然妊娠なのです。
出産に至る確率「8.8%」は、全体数でいえば3割弱の不妊治療者たちの確率を言ったにすぎません。