実相とは異なるトンデモ論
続いて、体外受精治療においても、「8.8%」しか子どもが持てないというわけではないことを書いておきます。これはあくまでも、1回の治療で出産に至る確率にすぎません。何回も治療を行うことで、その確率は当然、累積していきます。
さらに言えば、40歳だと体外受精1回当たり「8.8%」の出産率というのも、実勢より相当低く見積もられた数字でしょう。これから不妊治療を始める人たちは、それより相当高い出産率になるはずです。
なぜなら、こうした治療実績には、30代の頃から不妊治療を続けて、それでも子どもができず40歳になった比較的症状が重い患者の割合が高くなっているからです。軽度の不妊症患者であれば、早々に治療に成功し出産するため、そこで治療は終了いたします。そのため、軽症者は途中で抜けていき、40歳以降でも不妊治療を続けている人は、重症者の割合が高まっているからです。今まで妊活をしていなかった人が、40代になって不妊治療に臨んだ場合、ここまで確率が低くはならないと考えられます。
加えて、さらにまだ、問題があるのです。こうした患者さんたちが、治療とは別に、通常の夫婦生活の中で自然妊娠し、治療を終了させる割合がけっこうあるのです。出産確率8.8%というのは、こうした「勝ち抜け」組をカウントしない一次資料の単回治療においての数字です。
どうですか? 「8.8%」などという話は全く実相とは異なる一種のトンデモ論であり、いたずらに焦燥感を煽る、行きすぎた内容だとお分かりいただけたのではありませんか。
40代前半の不妊治療者の出産率は5割
概略がわかったところで、詳細なデータを見ていくことにいたしましょう。
厚生労働省の「不妊に悩む方への特定治療支援事業等のあり方に関する検討会」(2013年)にて、きちんとしたデータが示されています。
① 不妊治療を30代から続けていた人を除き、「40代ではじめて治療開始した人」を調査対象とする。
② 1回の人工受精ではなく、何度も治療を繰り返した結果、出産できた人はどのくらいになったか、を調べる。
③ 途中で治療を放棄した人(少なからず自然妊娠の可能性がある)を除き、きちんと治療を続けた場合の数値を出す。
結果は図表2の通りとなります。ちなみに、この数字は、同検討会に出席していた元JISART(日本生殖補助医療標準化機関)理事長でミオ・ファティリティ・クリニック院長の見尾保幸先生の治療データを基に作成されています。
このデータで見ると、治療継続患者のうち、妊娠に成功した人は55.3%、出産まで至った人は32%となっています。ちなみに、2014年版の治療データでは数字はさらに伸びて、40代前半の妊娠率は73.1%、出産に至る確率も5割に近い数字となっています。
ただし、再度言いますが、これはあくまで「不妊治療を受けている人」の出産確率です。
これとは別に、自然妊娠で出産に至った人が、この3倍近くもいるのです。