ストックオプションが効果的な企業とそうでない企業

もう1つ、社員に株を持たせるケースとして、ストックオプションがあります。社員が自社株を一定額で買える権利がストックオプションですが、私が在籍していた野村證券では一時期、発行価格1円のストックオプションを社員に配ったことがあります。

2008年に破綻したリーマン・ブラザーズの日本法人を野村證券が継承したときの話です。これにより野村證券は、平均年収ウン千万円の人たちを引き受けることになりました。そこで野村證券ではこのようなストックオプションを配ったようです。

元リーマン・ブラザーズの人たちは野村證券に愛着などないので、売却できる時期が来たら多くが株を売ってしまいました。当時の野村證券の株価は1株300円程度だったので、売れば必ず儲かります。「さっさと売ってしまえ」という感覚でしょう。渡す相手によってストックオプションは、そういうデメリットが生じてしまいます。

渡部清二、複眼経済塾『株主総会を楽しみ、日本株ブームに乗る方法』(ビジネス社)
渡部清二、複眼経済塾『株主総会を楽しみ、日本株ブームに乗る方法』(ビジネス社)

もちろん株価の上昇が自分の仕事ぶりに連動するという意識を持たせ、仕事に取り組ませることができれば、ストックオプションはよい方向に行きます。大企業は自分の働きと株価が結びつきにくいので、ベンチャーのほうが効果は出やすいでしょう。

実際ベンチャーには、上場前から社員にストックオプションを与えるところも少なくありません。複眼経営塾の塾生にも経験者が何人かいます。会社が上場し、ストックオプションを使って2000万円を手に入れたので、株の勉強に来たといった人たちです。

ただベンチャーのストックオプションも、上場したら株を売って会社を辞めるのが目的になる人もいます。そのあたりはやはり、さじ加減が難しいように思います。

渡部 清二(わたなべ・せいじ)
複眼経済塾 代表取締役・塾長

1967年生まれ。1990年筑波大学第三学群基礎工学類変換工学卒業後、野村證券入社。個人投資家向け資産コンサルティングに10年、機関投資家向け日本株セールスに12年携わる。野村證券在籍時より、『会社四季報』を1ページ目から最後のページまで読む「四季報読破」を開始。20年以上の継続中で、2022年秋号の会社四季報をもって、計100冊を完全読破。2013年野村證券退社。2014年四季リサーチ株式会社設立、代表取締役就任。2016年複眼経済観測所設立、2018年複眼経済塾に社名変更。2017年3月には、一般社団法人ヒューマノミクス実行委員会代表理事に就任。テレビ・ラジオなどの投資番組に出演多数。「会社四季報オンライン」でコラム「四季報読破邁進中」を連載。『インベスターZ』の作者、三田紀房氏の公式サイトでは「世界一「四季報」を愛する男」と紹介された。著書に、『会社四季報の達人が教える 誰も知らない超優良企業』(SB新書)、『会社四季報の達人が教える10倍株・100倍株の探し方』(東洋経済新報社)、『「会社四季報」最強のウラ読み術』(フォレスト出版)、『10倍株の転換点を見つける最強の指標ノート』(KADOKAWA)などがある。

複眼経済塾

複眼経済塾は、「わかりやすく、楽しく、真面目に」投資の方法を教える投資・ビジネスの教習所。全国に1273名(2023年4月1日時点)の塾生が在籍している。渡部清二塾長とトルコ出身の人気国際エコノミスト、エミン・ユルマズ塾頭の指導が直接受けられる。複眼経済塾では、日本株に注目し、座学の講義やワークショップだけでなく、全国で開かれる会社の株主総会、工場、研究所、産業遺産を回り、日本企業や日本の魅力について、五感を駆使して学んでいる。